主張
定常型社会のビジョン
Y
pp.17
発行日 1999年1月1日
Published Date 1999/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541902591
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日本経済や日本社会のゆくえについて,悲観的な,あるいは閉塞的な雰囲気が強まっている.この根本的な原因は何か? 最も本質的には,日本が今後迎えていく高齢社会ないし成熟社会についての積極的な展望あるいはビジョンが見えない,ということに尽きると思われる.
経済成長の究極的な駆動因は「需要」であって「供給」ではない.概ね第二次大戦までの状況は,生産水準が進展するごとに「供給過剰(もの余り)」の状況が生じ,それが恐慌や戦争という破局を引き起こして均衡するという循環が繰り返される,というものだった.これに対し,ケインズ以降の時代は,政府の政策その他を通じて,「需要の創出」が不断のものとして行われるようになり,これが戦後の世界において文字どおり世界史上未曾有の「やむなき成長」を数十年にわたって可能にしたのである.そうした不断の「需要創出」の原動力となったのは,実質的に,①(政府による)所得再分配政策,②(公共財としての)社会資本の整備,③技術革新,④広告やモードを通じた消費刺激,であった.①や②(および③における基礎研究)に示されているように,これらの多くは政府によってなされたから,こうした需要創出政策は「福祉国家」の理念ともリンクするものであった(いわゆる「ケインズ主義的福祉国家」).
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