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日本老年看護学会第17回学術集会の教育講演は,対照的な2つの学問的アプローチを例示しており,どちらも研究者としての深い思索や気迫のこもった取り組みの蓄積に非常に感銘を受けた.これら2つの講演が連続して提供されたことは,これからの老年看護学への取り組みのありようを考えるうえで,きわめて示唆に富むものであったように思う.
1つは,学術集会のテーマでもあった「当事者」の視線から出発した,老いを生きる経験への人文社会科学的アプローチと思われた.演者のユーモアにあふれた語り口につい笑いを誘われつつ,老いを経験する思いについての深い思索が随所にうかがわれ,ああこれは参りましたと何度もうなった.この講演は,日本における看護学への伝統的な接近法のひとつを典型的に体現していたように思う.すなわち,看護の対象となる人間の生も,看護師が人間として対象に寄り添っていくそのありさまも,その渦中にある人の視線を基盤としつつ経験を丸ごととらえることこそ,真に看護に立脚した学問的アプローチである,という姿勢である.医学などの他領域とは異なる「看護学」の学問体系とはなにかを真摯に追い求めた形として,非常に共感するアプローチであった.最後に紹介された,高齢者への看護師のかかわりに関する概念化は圧巻であり,このような枠組みを複数生み出し,それらに基づいてこそ,今後の老年看護学が構築されていくべきであると強く感じた.このような看護の人間観に直接的に結びついた学問的アプローチが,日本の看護学界に脈々と受け継がれていることを心強く感じた.と同時に,このような学問的アプローチがもっともっと市民権を得て,看護以外の人びとにも広く理解(認識)され,普及し,看護が人間をどのようにみて,なにをしているかがより広く理解されるように,学問的ないっそうの努力が私たちに求められているということも考えた.これからの世代が鋭意力を結集し,学問的知見を次々と世に問うていかなければならないのだと感じた.
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