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Ⅰ.はじめに
癌に対する三大治療法の一つである放射線療法は,手術療法と並び有力な癌の局所療法であり,手術療法や抗がん剤との併用での効果が期待される治療法である1,2).放射線療法は,癌に侵された臓器の形態を維持し機能を温存させながら治療できるため,患者のQOLをあまり損なわないという利点3)がある.また患者は,治療導入時の医師からの説明によって治療経過や期間,治療後の効果をみる検査等への見通しをたてることが可能であるといえる.
放射線療法を受けるがん患者に関する研究は,主として欧米で多岐に渡って行われている.Kubricht4)は,患者が治療の結果として身体的,心理的,社会的,霊的かつ認知的変化,中でも副作用として経験する身体的変化に対するニードについて明らかにし,新たなセルフケア行動を獲得していくことの重要性を述べている.Dodd5)は,放射線療法による副作用症状が日常生活へ及ぼす多大な影響を明らかにし,治療に関する知識と副作用に対するセルフケア行動との間の肯定的かつ有為な関連を明らかにしている.治療や副作用症状についての正確な情報と,セルフケア行動の関連については,Strohl6)やWeintraubら7),Hagopian8)も言及し,適切な情報提供が患者の副作用へのセルフケア行動を高めることや不安を軽減することを明らかにした.
さらにがん患者は,身体的な安寧を得るための情報9)や疾患と治療に関する情報10)を要求しており,客観的で一貫した情報は問題解決に向かう患者に効果的な影響を与える11)ことが明らかにされている.またOberstら12)は,放射線療法の及ぼす心理・社会的変化に焦点を当て,患者は家族や社会における役割遂行の変化を経験し,それらを受け入れ,新たな役割を果たすことの重要性を述べている.
人はその時々の状況に応じて行動を変容し,後天的に獲得した行動によってそれに対処することや,環境に対して能動的に働きかけることによって,必要な情報を選択的に獲得する必要がある13).Deci14)は,人は新しい状況において,そこにどのような要素が含まれているのかを判断し,それらを利用しながら創造的に問題解決を図ろうとすると述べている.放射線療法を受けるがん患者は,がん告知から入院・治療へと移る新しい環境に自ら働きかけることによって,多様な心理社会的課題に対処するための学習行動を繰り返していると推察される.
人は,「構え」とよばれる対象や出来事に関する見方や受け取り方を規定する内的な枠組みを持つとされ,「構え」は,社会環境に関する一定の認知構造を成立させると共に,特定の行動に向かう,内的準備状態としての機能を備え,その形成には個人の生活史や所属する社会や集団の規範・価値体系,社会や集団へ自己をどのように関係づけているかが関わる15)とされている.つまり「構え」は,人間が直面する状況に対して必要な情報を獲得しながら,状況に応じた行動をとるという学習に際して生じる,方向性を持つ内的準備状態として捉えることができる.Benner16)は,患者についての全体的な構えを論じるなかで,人間の「構え」を状況に対する方向付けとし,外部にはつかみにくいものであるが常に蓄積され,同時にアセスメントもしくは介入のもととなり,実践的な側面を支持する働きをすると述べている.
以上より,放射線療法を受けるがん患者が新たな環境のなかで,ある特定の行動や目的に向かってどのような構えを持ち治療に向かっているのかを把握することは,多様な心理社会的課題に対処するための学習を繰り返している患者を援助するうえで重要な条件のひとつであると考える.
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