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I.緒言
多発性骨髄腫は,形質細胞が腫瘍化し,骨髄中で増殖する造血器悪性腫瘍 1)である.わが国では人口10万人あたり約5人の発症率で,死亡者数は年間4,000人前後であり,全悪性腫瘍の約1%,全造血器腫瘍の約10%を占める2).診断時の年齢の中央値は66歳であり,罹患率・死亡率とも高齢になるほど上昇するため,わが国では高齢者の人口の増加にともない,今後は患者数の増加が予想されている 3).
多発性骨髄腫は,従来の化学療法に対する反応性は不良で治癒困難な疾患ではあるが,2000年代に入り,分子標的薬や免疫調整薬などの新規薬剤が次々と登場し,著しく治療が進歩したことから予後は大きく改善してきている 4).また,65歳未満で臓器機能に問題がない患者は,自家造血幹細胞移植を併用した大量化学療法が治療戦略として示されている 3).
多発性骨髄腫のおもな症状は,高カルシウム血症による意識障害,腎不全,貧血による動悸や労作時の息切れ,倦怠感,骨病変による腰痛や背部痛といった骨痛などである.特にこの骨痛は,70%以上の患者で認められており,患者のADLとQOLを著しく損なう 5).また,多発性骨髄腫は,こういった骨症状を初発症状とすることが多く,病的骨折を契機に診断に至る患者が存在し,その他,過粘稠度症候群による精神神経症状や視力低下,出血傾向,四肢の冷感,まれに高アンモニア血症が起こる場合がある 6).このように多発性骨髄腫の症状は多彩であるが,医学の立場からは,淵田 7)がQOLを保ちながら長く治療を継続していくことが治療の目標となると述べていることから,多発性骨髄腫患者は,これらの症状をかかえつつもそれらに対処し,その多くの人は薬物療法を長期的に組み入れた生活を営んでいると考えられる.
このように,発展し続ける多発性骨髄腫の医療情勢をふまえると,これらに応じて多発性骨髄腫患者への看護を刷新していく必要がある.現在,多発性骨髄腫患者を対象とした看護の研究は,海外でも多くはなく,日本ではさらに少ない.この現状に即し,多発性骨髄腫患者が延命に不可欠な薬物療法と骨病変などの多彩な症状に対処する生活への看護の構築を目指すには,先行研究からこの患者のがんとともに生きる経験の知見を得ることに意義があると考えた.
Tong, et al. は,質的研究は,人間の行動,感情,態度,経験を詳細に理解することを目的としており,複数の質的研究から得られた知見を統合することで,ヘルスケア全体にわたる研究参加者の経験とその意味,その人たちへの看護の展望の範囲と深さを提供できる 8)と述べている.Li, et al., Ramsenthaler, et al. は,EORTC QLQ-C30やMyeloma Patient Outcome Scaleなどの尺度を用いて多発性骨髄腫患者のQOLを中心とした調査を行っている 9)10)が,多発性骨髄腫患者のがんとともに生きる経験を文献レビューにより明らかにするには,Tong, et al. が述べるように,質的研究論文の統合が適していると判断した.
本研究は,質的研究論文を統合する文献レビューにより多発性骨髄腫患者のがんとともに生きる経験への知見を得て,変わりゆく医療を視野に入れた多発性骨髄腫患者の看護を考察することを目的とした.
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