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I.緒言
がん薬物療法は,分子標的薬の開発や支持療法の普及により急速に進化し,がん患者の治療の場は入院から外来に移行してきている.その結果,治療を受けながら仕事や日常生活を続けることができ,患者のQOLに大きな利点が生じている.しかしその一方で,抗がん剤による発がん性が報告され 1),Falckら 2)によって,がん薬物療法に携わる医療従事者への曝露(以下,「職業性曝露」とする)による危険性が報告された.
このように,患者だけでなく医療従事者にも危険がある薬品を「Hazardous Drugs」(HD)とし,安全に使用するためのガイドラインが国際的にも作成されはじめている.日本での職業性曝露予防への意識は,欧米と比較して著しく遅れているものの,2014年の「発がん性等を有する化学物質を含有する抗がん剤などに対する曝露防止対策について」の通達 3)により,職業性曝露対策が急速に行われ,2015年には,日本がん看護学会・日本臨床腫瘍学会・日本臨床腫瘍薬学会が合同で「がん薬物療法における曝露対策合同ガイドライン」4)(以下,「合同ガイドライン」とする)が刊行された.2019年には改訂版が発刊され,職業性曝露対策のみならず,薬物療法中の患者・家族への曝露防止のための支援として,皮膚からや尿からの排泄物による曝露予防対策として,家庭での患者の衣服の洗濯やトイレの利用上の注意点など記載されるようになった 5).
2019年度に改訂された合同ガイドラインでは,尿や皮膚などからのHDの排泄について取りあげられ,在宅での衣服の洗濯や,トイレ掃除の際の注意点が記載されている.しかし,血液中での薬物動態に大きく影響している唾液へのHD排泄状況については,未だ調査されていないため調理や食事上の注意点は記載されていない.
乳がんは子育て時期に多く罹患するがん種である.乳がんへの薬物療法に用いられるシクロフォスファミド(Cyclophosphamide 以下,CPA)は米国食品医療品局による胎児危険度分類ではカテゴリーD(危険性を示す確かな証拠がある)であり,国際がん研究機関による発がんリスク分類でもグループ2A(ヒトに対する発がん性があると考えられる)とされている 6).また,CPAは投与後の便や尿中への排泄率は,尿中では48時間で最大62%といわれており 5),排泄率が高いため,自宅での家族への曝露の影響が高いと予測される.
そこで本研究は,CPAを含むレジメンの薬物療法を受けた乳がん患者の治療後の唾液への排泄状況を明らかにし,治療後の患者と生活をともにする子どもやほかの家族への曝露防止支援を検討したいと考えた.
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