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Ⅰ.はじめに
がん医療の進歩による集学的治療で,がん患者の生存率,治癒率が向上し,治療後の人生におけるQOLの維持が重要視されている.他方,生殖医療技術の進歩から,受精卵凍結,卵子凍結,卵巣組織凍結などが選択肢として普及しつつある.従来,検討されることのなかった小児がんの子ども達や,生殖期にがんに罹患した若い成人に,将来の妊孕性への配慮の必要性や女性が妊娠・出産を望むことができる手段が出現している.しかし,がん・生殖医療の歴史はまだ浅く,2006年頃から米国では関連学会が,がん患者の生殖機能の保護に関するガイドラインを作成し,日本でも徐々に学会の会告や指針が明文化され,専門外来による対応が始まった.2015年には専門学会が設立された1)2).
オンコロジーナースは患者が,がん医療と生殖医療ともに混乱なくリプロダクティブヘルスの選択ができるように案内役となるナビゲーションサービスの役割を果たす必要があるといわれている3).ところが,がん・生殖医療に関する教育は,がん看護の基礎教育,専門教育,継続教育,どの看護教育領域においても不足している.Goossensら4)は,医師に比べて看護師の多くは患者と妊孕性温存療法について,ルーチンに話していないと指摘する.69%のがん治療医が患者と話しているのに対し,看護師は14〜17%であった.患者との話を妨げる因子は,妊孕性温存の手順やガイドラインに関する知識や訓練がない,優先度が低いとする態度,話すうえでの居心地の悪さ,話す役割はないという意識,患者の関心がないという印象,がん治療を遅らせることへの否定的態度などであった.Kingら5)によれば,乳がん患者の妊孕性温存療法に関する知識は医療チームメンバー間で差があり,腫瘍専門医に比べ,外科医や専門看護師(clinical nurse specialist)は,知識が少なかった.大月らの調査6)では,65名のがん看護に携わる看護師のうち,妊孕性温存療法の相談を受けた者は16.6%であり,また65名全員が妊孕性温存療法を知ることで患者・家族の看護支援に活かせると回答した.田中らの調査7)では,がん医療領域の医師8名,看護師94名の全員が妊孕性温存療法について患者説明の必要性を認めたが,医師7名は患者の背景(年齢,性別,婚姻の有無など)で説明するかどうか選別していた.全体に知識不足を感じており,知識があれば説明できると答えた.このように,知識や意識の不足が指摘されているが,ナースの知識や意識,経験への影響要因,具体的な学習ニーズに関する情報が十分に得られているとはいえない.本研究の意義は,今後,オンコロジーナースに対する妊孕性温存療法の教育プログラムを構築し,運用するために必要で役立つ知見が得られることにある.
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