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Ⅰ.はじめに
がんの治癒率は向上しているが,その治療は侵襲的で疾患や治療により身体機能の低下が起こり,治療中および治療後の人々(以下,がんサバイバー)のほとんどが倦怠感を体験している.全米総合がん情報ネットワーク(NCCN;National Comprehensive Cancer Network)の倦怠感軽減のための実践ガイドライン策定委員会は,がんに伴う倦怠感について,「主観的な感覚で慢性持続的な疲労困憊な状態を指すものであり,活動量に比例して増大するものではなく,休養しても軽減するものでもない.そしてその成因はいまだ十分には解明されていないが,正常な機能を妨げ患者にとって非常に大きな問題となっている」と,ガイドラインの中で述べている1).
米国において運動によるがん患者の倦怠感の軽減やquality of life(生活の質)の向上効果に関する介入研究は,1990年以降急速に発展した2).聖路加看護大学21世紀COEプログラムのプロジェクトの1つである筆者らの「がんサバイバーの身体活力の回復をめざすプログラム」では,がんサバイバーが倦怠感などの不快な状態から解放され,できるだけ早く発病前の生活スタイルに戻って自分自身の健康を育みながら自分らしさを取り戻すための運動プログラムを開発をめざしている.これまで4年間の研究プロセスの中で,がんサバイバーの運動プログラムについて網羅的な文献検討を実施し,本学会第2回国際学術集会(2007年)で報告した.さらに造血細胞移植後患者の主観的体力について検討し,無菌室在室による不動状態に伴う下肢筋力低下の推移と健康観との関連性に関する研究を行い3),これらを本プログラム開発の基礎資料とした.そして米国で1989年よりがん患者に対する運動プログラムの評価研究を開始し4),現在は学際的チームを結成し多施設大規模研究でがんサバイバーに対する運動の効果について科学的根拠を提示している,米国メリーランド州Johns Hopkins大学看護学部Victoria Mock教授を,2006年8月に筆者らは訪問した2).さらに2007年6月30日に日本における「がんサバイバーのための運動プログラムの開発に向けて」と題してワークショップを開催し,Mock教授を招聘し,講演いただいた.
本報告ではこれまでのMock教授の業績を紹介し,本年6月に実施したワークショップの概要と今後の課題について述べる.Mock教授にとって今回は日本での初めての講演であり,かつ期せずして最後の講演となった.誠に残念なことにMock教授は米国に帰国直後体調を崩され,2007年11月15日ご自宅でご家族が見守る中,逝去された.Mock教授自身ががんサバイバーであり健康管理には細心の注意を払われており,その体験がこれまでの運動プログラムの開発や発展の原動力となっていた.よって本報告は,これまで精力的に緻密な研究を重ね,温厚で細やかな気配りをされる誠実なお人柄であったMock教授への深い敬意と哀悼を込めた追悼報告である.
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