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Ⅰ.はじめに
がんの治療中,治療後の人々の7割以上が長期間におよび倦怠感(cancer-related fatigue;CRF)を体験しており,そのうちの80%以上の者では倦怠感が「普通の生活」を妨げ,日常生活を変更しなければならないと報告されている1)2).このCRFの成因は化学療法や放射線療法などの治療の副作用である嘔気・嘔吐,食欲不振,ビタミン・微量元素等の欠乏や体液・電解質のバランス異常によるもの,貧血,感染による体力の消耗,さらに炎症性のサイトカインや腫瘍壊死因子(tumor necrosisfactor),活動量の低下などによる筋蛋白の消耗,また心理社会的な要因として抑うつ,不安,睡眠障害,痛みなどの関与が考えられているが,現在までのところ十分には解明されていない1)3)4).全米総合がん情報ネットワーク(National ComprehensiveCancer Network;NCCN)の倦怠感軽減のための実践ガイドライン策定委員会では,「CRFは主観的な感覚で慢性持続的な疲労困憊な状態をさし,活動量に比例して増大するものではなく,休養しても軽減するものでもない.患者の正常な機能を妨げ非常に大きな問題である.」と記している3).そしてCRFの軽減方法として,運動療法が推奨されている3)5).また最近では乳がん化学療法中の患者,あるいは終了後のサバイバー(治療終了者)の身体活動量が,乳がんの診断前に比べて有意に減少し,座りがち(sedentary)な生活習慣となり,これにより過体重や肥満となって問題視されるようになっている6).2005年カナダ地域健康調査によるとがんサバイバーのうち,乳がんサバイバーは健康人と比べて運動をする人の比率が低く,さまざまな疾患に対してハイリスクであり,乳がんサバイバーに対して運動を強く促すようになってきている7).
欧米におけるがん患者に対する運動療法が進展してきた経緯について,1990年にWatsonは米国がん看護専門誌“Cancer Nursing”に「がんリハビリテーション 概念的な発展」と題して文献レビュー8)を発表した.この中でがんのリハビリテーションという概念は1960年代から提唱され9)10),その後1981年にDietz11)が,適応を促すためのがんリハビリテーションを4つのカテゴリー(予防的,回復推進的,支持的および緩和的)を示したとされている.これを受け,その後1985年の米国がん法(The National Cancer Act)の改正法に「がんリハビリテーション」が言及されている.わが国においては,平成19(2007)年にがん対策基本法が制定され,第16条にがん患者の療養生活の質の維持,向上ために必要な施策が掲げられ,疼痛等に対する緩和ケアの充実が示されているが,リハビリテーションに関する明確な言及はない12).
以上のように欧米ではがん患者に対するリハビリテーションは広く浸透している.Luciaら13)による文献レビューでは,1983年にWinninghamら14)が初めてがん患者が運動により治療中の気分を高揚させたと報告し,その後1990年以降CRFの症状コントロール方法の1つとしての運動の有効性が多く検証されてきた15)〜17).これらは1981年にDietzが示したがんリハビリテーションの概念の中で予防的リハビリテーションにあたる.そして2005年に前述したNCCNは,がんの治療中,治療後,ターミナル期においても,CRFに対する非薬理的な介入方法として身体活動の促進を推奨した.さらに2008年2月にコクランライブラリのThe Cochrane Database of Systematic reviews(CDSR)より「成人におけるCRFマネジメントとしての運動に関するシステマティック・レビュー」18)が発表された.これはCRFに対する運動の効果について無作為化比較試験法を用いた28文献を吟味したものであり,がんの治療中,治療後のいずれの時期でも運動はCRFを軽減させる効果があると示している.また一般市民への情報では,米国がん協会(American Cancer Society)が健康的に生活するための知識(Resources for Healthy Living)19)の中で活動的であり続ける方法(Staying Active)として運動に関する情報をインターネット上で提供している.また英国では全国がん運動リハビリテーション協会(National Association of CancerExercise Rehabilitation;NACER)が運動方法のワークショップの開催や,がん患者への運動指導専門家情報を提供している20).
そこで本稿では欧米で普及しているがん患者やサバイバーに対する運動プログラムの開発の基盤となった文献的根拠(evidence)を明らかにする.さらにわが国においてもがんサバイバーの症状マネジメント方法となりえる運動に関して,今後の展望を述べる.
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