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はじめに
日本で看護診断についてさまざまな論議がされ,活用され始めてから,10年以上が経過している.その間,社会の環境のさまざまな状況の変化は,人間を対象とした医療のあり方や体制などに,当然なことながら大きく影響を与えてきた.
現在,高齢化や少子化,生活習慣病をはじめとする慢性化する疾病の増加などにより,医療へのニーズが量,質ともに変化している.また,高度な医療技術の進歩や医療経済は逼迫してきているなかで,さまざまな面から経済的な効率化を求められている.一方,人間1人ひとりを大切にする人権尊重の意識は高まり,これに対応する動きも求められている.さらには,情報を共有化する機運とともに,医療のIT化への急速な変化が押し寄せている.
これらの社会変化は,看護のケアシステムや看護教育に当然のことながら影響を与えている.また,環境に対応した変化だけでなく,看護職自らも,現状に対する問題意識,看護の質に対する関心が高揚しており,より専門性,エキスパート性を志向するなどのニーズがあり,それに向けて能力獲得を目指すなど変化してきている.これらの変化のなかで,特に,現在,医療と介護の領域において看護の専門性を明確に位置づける必要性が迫られている.このためには,看護の対象である患者・家族,そして社会に対し,看護の成果を明確に示すことが必要となっている.
しかし,これら大きな変化に単に振り回されてしまうのではなく,看護の本質を軸にした対応をしなければならないと考える.そのためには,看護の対象である患者・家族にとって,健康的な生活に向けたよりよい看護ケアを提供していくという本質に目を向ける必要がある.
対象にとってよりよい看護ケアを提供するためには,対象のアセスメントが適切になされ,その状態・状況を正確に判断する「看護診断」がなされる必要がある.この正確な「看護診断」に基づき,解決に向けた適切な看護ケアがなされることで,対象がよりよい状態になるのである.看護診断の本質的な意義も,患者・家族への適切な看護ケアを提供することにある.これは,「看護診断は看護師が責任を負っている目標を達成するための看護介入の選択の基礎を提供する」(NANDA, 1990)として挙げられている.この対象に合ったよりよい看護ケアを提供する一連の過程が質のよいもので,それが常に保証されることは,患者・家族にとって,環境の変化にかかわらず普遍的に大切なことだと思われる.
そこで,看護のケアシステム全体と患者・家族へのよりよいケアの提供について,看護の質を保証する適切なアセスメントと看護診断,介入へのプロセスについて,ここであらためて振り返り,今後のあり方を検討したいと思う.
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