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Ⅰ.はじめに
アトピー性皮膚炎,気管支喘息などのアレルギー性疾患が最近急増して,今や国民病にまでなってしまった.しかし,これらのアレルギー性疾患は45年前までの日本にはほとんどなかった病気である.スギ花粉症の日本での初めての症例は1963年,日光市の成人であった.しかし,日光のスギ並木は17世紀に植えられており,昔はスギ花粉が飛んでいても日本人はスギ花粉症にならなかったのである.しかし,現代はスギ花粉症になっている日本人は,5人に1人とか2人になっているのである.
なぜ,45年前までほとんどみられなかったスギ花粉症をはじめとするアレルギー性疾患が最近急増したのだろうか.多くの学者は最近の都市化に伴う大気汚染や誤った食生活,スギ花粉の飛散量の増加などをその原因にあげている.しかし私はその主因がわれわれの体内に存在し,われわれを守っている共生菌までも追い出している「キレイ社会」にあると考えている.
私は40年前からインドネシアのカリマンタン島に通って,子どもたちの健康調査をしている.糞便が流れる河川で泳いでいる子どもたちの肌はとてもきれいで,アトピー性皮膚炎や気管支喘息などのアレルギー性疾患で悩んでいる子どもはほとんどいなかった(図1).しかし,ほとんどの子どもたちは回虫に感染していた.そういえば,昔の日本人はよく回虫にかかっていて,縄文時代から1950年代までの日本人の回虫感染率は常に50%以上を保持していた.日本人の回虫感染率が5%を切った1965年からアトピー性皮膚炎や気管支喘息,花粉症といったアレルギー性疾患が出現してきたのである(図2).
私は回虫がアレルギー性疾患の発症を抑えていると考え,20年間にわたる研究の結果,寄生虫体内からⅠ型アレルギー反応を抑える物質を発見した.それは寄生虫の分泌・排泄液中に存在する分子量約2万の蛋白質であった.私はその物質の遺伝子を決め,なぜアレルギー反応を抑えているかを解明した.その結果,この物質はTh2細胞から抗体産生細胞のB細胞への情報伝達経路のCD40をブロックして,Ⅰ型アレルギー反応を抑制していることがわかった(図3).
しかし,アレルギー反応を抑制しているのは寄生虫ばかりではなく,われわれの身のまわりにいる共生菌もアレルギー反応を抑えていたのである.
われわれが求めてきた「キレイ社会」は,皮膚常在菌や腸内細菌などの共生菌を「バッチイもの」として追いやっているのである.重要な院内感染菌は,われわれを守っている皮膚常在菌が抗生物質などに攻撃されて「耐性菌」になったものである.
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