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日本看護倫理学会第16回年次大会 教育講演Ⅱ
医療と公衆衛生の倫理:COVID-19パンデミックの経験から
Ethics in medicine and public health: The COVID-19 pandemic experience
大北 全俊
1
1滋賀医科大学
pp.101-102
発行日 2024年3月20日
Published Date 2024/3/20
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- Abstract 文献概要
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COVID-19のように感染症をめぐる倫理的議論の代表的なものとして、感染している人の移動の自由を制限することの是非のように、社会的利益(感染拡大を抑止すること)と個人的利益(移動などの権利の行使)との相剋が挙げられる。「チフスのメアリー」として知られるメアリー・マローンは腸チフスの無症候性キャリアであったために、その半生を離島で隔離されて過ごすことを強いられた1。COVID-19でもロックダウンや日本での緊急事態宣言のように、個人の行動が様々な仕方で抑制されたことは誰もが経験したところである。
感染症をめぐる倫理的論点として上記の論点の重要性を否定するものではないが、しかし、バイオエシックスの研究機関として知られる米国のヘイスティングス・センターのwebサイトに、COVID-19パンデミックのごく初期、個人の自由と感染症対策という図式に対する疑問を呈するエッセイが掲載された。そのエッセイでは、むしろ目を向けるべきは感染症対策によって誰により過重な負担がかかるかということ、つまり格差の問題に目を向けるべきとされていた2。同じような時期、HIV感染症の経験を踏まえてCOVID-19への対応で留意するべき点について論じられた論考においても、明確に健康格差を予見する必要性について主張されていた3。もっとも、それらの論考を待たずして、経済的な格差を反映するような仕方で感染が拡大し、また行動制限による負担も就労形態が不安定な人々などより脆弱な人々に過重にかかることは、COVID-19の拡大の当初から報道において指摘されていることでもあった4。
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