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倫理とは、「人々の間に成り立つことわり 人と人のかかわりあう中での守るべき道理」であり、絶対不変の法則ではなく、人と人、人と社会との価値観、習慣、生きていくうえでの合意事項である。倫理には、その人個人が何を大切にしているのか、価値観が大きく影響する。価値観を形成しているものとして、家庭環境や、親や先生からどのように教えられてきたかという「生育環境」、親孝行や礼、人間関係の和を重んじる「文化」、伝統・しきたり慣習・世間体・法律といった「社会規範」や「職業」などがある。
ここで、私が関わっていた患者の言葉を紹介する。彼女は30歳代の看護師で、がんを患い闘病していた。これ以上は抗がん剤治療ができないと主治医から宣告された彼女は、自分の働いている病院の医師にそのことを相談し、その医師に標準治療ではない抗がん剤投与をしてもらうことを選択した。「自分が看護師として仕事をしているときは『こんな状況の患者に抗がん剤を投与するなんて、A先生の方針は理解できない。A先生に治療をされる患者はかわいそう』と思っていた。でも自分が患者になったら、『両親が悲しむから、まだ死ねない。両親のために少しでも永く生きていたい』って思う。だからA先生に抗がん剤治療をしてもらうことにした。」と涙を流して話した。このとき、私は彼女の言葉を聞いて、人の価値観は状況や立場によって変わるものなのだ…ということにあらためて気づかされた。「こんな状況で抗がん剤をするのは患者のためにならない」という看護師としての価値観と、自分が患者の立場となったときの「可能性が少しでもあるのならそれに賭けてみたい、生きていたい」という患者としての想いや価値観は異なる。私たちが看護師としての価値観、医療者としての価値観を患者に押し付けることは、偽善ではないだろうか。その人がどうしたいのか、どう生きたいのか、本人の価値観を知り、その人らしく生きるために、それを尊重して関わっていくことが大切である。
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