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はじめに
国際経営開発研究所(IMD)が発表している世界競争力ランキングをみてみると,日本はかつて世界の第2〜3位あたりをキープしていたが,残念ながら1990年代の後半から急激にランキングを落として20位以下となり,それは現在も変わることなく低迷が続いている.それに対する方針として,21世紀に入って,新たな産業システムの構築を迫られていた.そのため,研究開発成果を事業へ確実に結びつけることが重要な課題となっていた(三菱総合研究所所報.2003,井上隆一郎).
そのような時代背景をもとに,大学のさまざまな研究成果や知的財産を事業に結びつけられるのではないかということを期待されて,政府の肝いりで大学発ベンチャーの設立がさまざまな形で支援されることとなった(2001年6月政府発令.大学発ベンチャー3年間1,000社計画).
その結果,経済産業省作成の大学発ベンチャーデータベースによると2020年時点で設立された大学発ベンチャー数はなんと2,905社に上り,政府の計画以上の成果を上げているといっても過言ではない.さらに,2021年5月17日の経済産業省産業技術環境局大学連携推進室からの報告では,IPO(株式公開)している大学発ベンチャー企業は66社,時価総額の合計は3.1兆円ということで,一見するとまさにバラ色の未来を想像させる結果となっている.
しかし,大学発ベンチャーの目標をどこに置くかによって,それを成功とみるかどうかの評価が大きく分かれるところである.IPOができたことはその会社の将来を株の購入者が期待して莫大な資金が集まったのであり,それを成功例とみるかどうかは疑問視されている.ベンチャーに寄せられる期待値はとても大きく,その結果資金が集まってきているという側面がある.その証拠に,会社設立後10年以上経過し,製品を1つも出していないにもかかわらず,株価は依然として高値をつけたままとなっているベンチャーも少なからず存在する.
また,最近はベンチャーに対して逆風となる報告や結果も多数紹介されるようになってきている.「医療機器開発とベンチャーキャピタル実践編」(大下 創,池野文昭 著)によると,そもそも企業が投資したいと考えるベンチャーは0.6%程度のようだ.大学でさまざまな世界的な研究が行われているにもかかわらず,それが製品となって企業の儲けとなる可能性があるものが,その程度の頻度しかないということである.事程左様に大学発ベンチャーでのものづくり,または大学の研究シーズが製品となって儲けることができるものの絶対数が少ないことを物語っているといえよう.
ところ変わって,本稿のタイトルをご覧いただきたい.産官学,医工連携におけるものづくり(楽観論)ということで,なんと挑戦的で自慢げなタイトルだろうと思われる方も多いと思う.しかし,決して自慢するつもりもなく,読者の皆さんが産官学連携や医工連携をめざしたり,ベンチャー設立を志す際の参考にしていただきたいと思い,執筆をさせていただく.
最初に結論から申し上げるのは推理小説での犯人を知ってしまうようで はなはだ興ざめであるが,それをあえて申し上げたいと思う.それは,
①医学医療は産官学,ベンチャーとは相性がよい
②リハビリテーション関連は,その中でも特に相性がよい
ということである.ただし,その詳細は後半に述べたいと思う.
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