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リハビリテーション医学における常識は,各専門分野における日々の研鑽と臨床研究の積み重ねにより常に変化し続けている.例えば,がん患者の術後を例にとってみても,以前は術後早期に安静を保つことは常識であり,リハビリテーション治療の余地は少なかった.しかし,開胸・開腹術後の呼吸器合併症が減少し,臥床に伴う廃用リスクが注目されたことで,がん診療ガイドラインにおいても早期リハビリテーションが推奨1)されるようになった.さらに,「がん患者リハビリテーション料」の診療報酬が設定されるなど,早期リハビリテーション医療は,がん患者の治療において,新たな常識として定着している.これはいうまでもなく,先人たちの臨床研究の積み重ねによる賜物である.
肘部管症候群や手根管症候群などの上肢絞扼性末梢神経障害においても,病初期では薬物療法や生活指導を,進行期では手術療法2)を行うことが主流であり,運動療法などのリハビリテーション医療では神経機能そのものはよくならないというのが常識であった.しかし,近年の臨床研究の成果により,関節運動に伴い末梢神経が滑走することが明らかになり3, 4),上肢絞扼性末梢神経障害に対しても神経滑走訓練(nerve gliding exercise:NGE)を行うことで,神経機能が改善するとの報告が国内外でみられるようになった5-8).これらの報告を契機に,上肢絞扼性末梢神経障害の保存療法としてのNGEは,少しずつ新たな常識になりつつある.われわれは,この新たな常識をさらに発展させるべく,上肢絞扼性末梢神経障害の術後におけるNGEの有用性に関して,当院手外科専門医と協力して臨床研究を行っている.今回は,その中でも肘部管症候群における臨床研究について述べていきたい.
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