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私がリハビリテーション医学に興味をもったのは,医師として勤務し始めた頃であった.当時,私は神経内科医として研修していた.薬物治療だけでなく,リハビリテーション治療も継続する中で,脳炎の患者さんが徐々に回復される状況を目のあたりにし,とにかくすごいと感動したことを覚えている.当時入院されていた患者さんは,脳炎,多発性硬化症,パーキンソン病,進行性核上性麻痺,多系統萎縮症,脊髄小脳変性症,末梢神経障害,筋疾患などで,ほぼすべての患者さんがリハビリテーション治療を受けていた.難病の患者さんにとってのリハビリテーション治療は,なくてはならないものであると実感したことを思い出す.
その当時の病棟には,長期間にわたり入院されていた患者さんがおられた.70歳代の女性の方で,寝たきり状態であった.眼球運動障害を合併し,表情からはその患者さんの気持ちを推測することは難しい状況であったが,医療者の手のひらに,指で単語や短い言葉を書く,「手のひら書き」を用いてコミュニケーションを行っていた.ある深夜,看護師が病室を見回っていると,暗闇の中で,その患者さんは足をまっすぐ天井のほうへ上げておられた.「何をしているの?」と看護師が尋ねると,手のひらに,「リ・ハ・ビ・リ」と書いてくれたと,後日その看護師から話を聞いた.自主的に運動をしようと思われた時間帯が真夜中であったということのようであった.寝たきりの方ではあったが,自主的に運動をしようと思っている患者さんがおられるということ,そして,その患者さんにとっては,まぎれもなく治療の1つであること.リハビリテーション医療の力を実感した初めての出来事であったかと思う.それがきっかけとなったかどうかは定かではないが,当時の教授でおられた高柳哲也先生にリハビリテーション医学について勉強させてくださいとお願いをして,その数年後に晴れてリハビリテーション科医として勤務することになった.
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