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はじめに
「遺体科学」を提唱している.研究対象や手法は,解剖学というアリストテレス以来の名前で呼ばれる領域と重なるのだが,実際のところ,遺体へ寄せる好奇心の深さと幅が,自分の学問を新しくさせているといえるだろう.
遺体科学は,大量の遺体を集める1,2).筆者の場合,普段は動物の遺体が対象である.死体と呼んでも構わないのだが,死という漢字のもつ救い難い否定感を逃れるべく,しばらくは死せる動物の体を遺体と呼ぶことにしよう.動物遺体は,身体の形の歴史を語り尽くしている.表現型を独占した実態といってもよい.データ化できる形のすべてが,進化の歴史性に対する唯一の証拠立てとなる.脊椎動物でいえば5億年に及ぶ時間を形に換えて残している本体は,遺体しかない.
形態学は,進化を扱うとすれば,典型的な歴史科学である3,4).歴史を実験によって再現的に証明することはそもそもほとんどない.形態学は,C.ダーウィンの手で進化という時間軸を付与され,過去およそ150年間を経たといえる.進化学を形態学によって進めることは,時代の如何を問わず,その語り得る内容の多さと正確さとから,これからも重要視されていくことは間違いない.
他方で,残念ながら,解剖学・形態学には,往々にして軽視される局面があった.日本の多分に乱暴な分子生物学からの攻撃は取るに足らないものであったが,科学哲学においてもっとも形態学にダメージを与えたのは,C.ベルナールであっただろう.理をもって生理学の必然性と客観性を説き,それに比して解剖学を無用の長物と評した彼の論は,その論理展開に切れ味を見せている.いまも,遺体科学にとっての最大の敵は,C.ベルナールの残した理詰めの還元主義であるかもしれない.それに対して筆者は徹底した遺体収集と比較総合によって最大級の客観性を確保する1,2).遺体科学は還元論に対する形態学からの解答の一つだと主張できる.
Abstract : Dead body science has tried to clarify the functional-morphological evolution of the mammals including the human. It fundamentally consists of the unrestricted collection of the dead bodies of the vertebrates, for example, from the zoos, aquaria, and from hunters. We show the results of the three-dimensional analysis about the manipulation mechanism in the giant panda, the enlarged eye and orbit in the Baikal seal, and the mastication system in the giant anteater. The findings actually contribute to the comparative functional-morphology of various mammals, and in the future the stored specimens after the dissection in natural history museum will continue to serve as an evidence of the evolutionary history of form and function in mammals.
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