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はじめに
体重を部分的に免荷した状況下で下肢の動作を補助し(受動歩行),正常な歩容を再現する免荷式歩行トレーニングが歩行機能再獲得に向けたリハビリテーション(以下,リハ)の主流となりつつある1).この背景には,脊髄を含む中枢神経系が可塑的性質を持つことが明らかにされ,歩行機能の再獲得が実現できる可能性が示唆されたことが大きい.
脊髄神経回路網に可塑的変化を生じさせるためには,上位中枢からの下行性指令とともに,体性感覚受容器からの感覚情報が不可欠である.とりわけ四肢から生じる歩行に関連した感覚情報は,各種脊髄反射回路が残存していれば脊髄中枢に入力可能であり,歩行運動に関与する脊髄中枢パターン発生器(central pattern generator:CPG)等の再構築に重要な役割を果たすと考えられている2).しかしながら,これらの推察は,四足歩行動物の実験成績に基づくものが多く3,4),未だヒトの歩行に関連した感覚情報が脊髄CPG回路の活動を促すのか否かについて不明な点が多い.
体性感覚情報は,上述の脊髄CPG回路の出力に一部貢献していることが知られており5),周期運動中の各種脊髄反射の興奮性は,この神経回路の活動を間接的に反映すると考えられている6,7).特に,ヒトでは破壊実験等のラジカルな手法で脊髄神経機構に迫ることは不可能であり,動作中の脊髄反射の興奮性からこの神経回路の活動を類推する必要がある7).
本稿では,歩行に関連した感覚情報が各種脊髄反射の興奮性にどのような影響を与えるのかについて焦点を絞る.従来,実験的にこの感覚情報を生成するには方法論的な限界があった.例えば,通常歩行では随意運動を生みだす下行性指令と分離することができず,そのため,受動周期運動モデルとして,受動自転車漕ぎ運動等を利用していた8).しかし,その運動パターンは歩行運動と大きく異なる.また,受動自転車漕ぎ運動では,脚部の荷重情報を生成することは極めて難しい.歩行中の荷重情報は歩行パターン生成や脊髄損傷後の歩行機能回復に重要とされている9).近年では,歩行トレーニングロボットとして開発された自動歩行補助装置(Lokomat®)を用いることにより,脚部への荷重情報にも焦点を当てることができ,随意性の下行性指令を最小限に抑えた受動歩行運動が可能となった10).そこで,本稿では我々のこれまでに得られた結果の中から11~14),歩行時の体性感覚情報が下肢および上肢筋の各種脊髄反射経路の興奮性に与える影響について紹介する.
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