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はじめに
高次脳機能障害とは,医学的には運動麻痺,感覚障害,痴呆などでは説明できない中枢神経系の障害による言語,認知,動作の障害のことであり,高次脳機能障害の症状には,失語,失行,失認,記憶障害,遂行機能障害,注意障害,精神情動障害などがある1).高次脳機能障害は,脳血管障害,外傷性脳損傷,脳炎,変性疾患など,様々な疾患により生じるが,近年,話題となっているのは,交通事故により外傷性脳損傷を受傷して生じた高次脳機能障害である.外傷性脳損傷により生じた高次脳機能障害患者は,運動障害はないかまたはごく軽度であり,他人からはどこに障害があるのか分かりにくく,医療機関は急性期治療が終了するとその後の対応には関心が薄く,福祉機関は高次脳機能障害に慣れておらず,十分な社会的支援が受けられない状況にあった.困窮した患者やその家族が陳情をして,厚生労働省は2001年4月に高次脳機能障害支援モデル事業研究班を立ち上げ,モデル事業として試験的に高次脳機能障害者の支援を開始した.研究班は支援対象者を行政的な意味合いを含めて規定し,高次脳機能障害という用語を定義した2).この高次脳機能障害は,外傷性脳損傷,脳血管障害,脳炎後遺症,低酸素性脳症などの疾患により生じる記憶障害,注意障害,遂行機能障害,社会的行動障害を主症状とする認知障害に限定しているので,本稿では高次脳機能障害の用語は研究班の規定した趣旨で用いることにする.
高次能機能障害のリハビリテーション(以下,リハ)を立案し,社会支援体制を構築するには,まず,何人の高次脳機能障害患者が発生してどの程度のリハ医療ニーズがあるかを明らかにする必要がある.研究班では,当初,全国の高次脳機能障害患者数を約25万人,その中で18~64歳の者は約7万人と推定した2).2000年に大阪府が実施した調査では1年間の発症率は15.1人/人口10万人,2004年に長崎県が実施した調査では1年間に10.9人/人口10万人と報告した.2008年に東京都高次脳機能障害者実態調査検討委員会が実施した東京都内の高次脳機能障害の調査では1年間に3010人の発症があり,患者総数は49508人で人口あたりに換算すると381人/人口10万人であった3).しかし,これまでの調査では診断基準が研究班診断基準と異なる可能性があり,調査対象や調査方法も異なり,結果の解釈に配慮を要する.そこで高次脳機能障害支援事業の対象となる患者数との観点から,高次脳機能障害を発症した患者を,観察地域を定め前向きに調査することにした.
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