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はじめに
リハビリテーションとは,障害を持つ人が,身体的,心理的,社会的側面を含めた全人的な適応状況を,到達可能な最も高いレベルまで回復していく過程を意味している8)。リハビリテーションは,障害やハンディキャップを軽減し,障害を持つ人の社会的参加を可能にするあらゆる方略を内包する。したがって,リハビリテーションは医学領域に限ったものではなく,教育・職業・社会福祉などの広い範囲にわたる理念である。
本邦では2001年の厚生労働省による「高次脳機能障害支援モデル事業」の開始を機に,「高次脳機能障害」という言葉の知名度は高まった。しかし,障害に対する理解,社会福祉サービス,行政の取り組みなどを含めたリハビリテーションは,身体障害とは比較にならないほど遅れている。
たとえば,脊髄損傷により下半身が不自由になった成人のリハビリテーションを考えてみよう。受傷直後から,医学的な管理のもと,損傷を免れた脊髄領域の筋力強化に加え,基礎的な体力の獲得,排泄・食事・移動などの日常生活動作(activities of daily living,ADL)の訓練を行う。それから徐々に退院後の生活を指向し,社会参加に比重が置かれる。具体的には,車いすの利用,上肢だけで運転可能な自動車などによる移動手段の獲得,職場環境の整備,福祉サービスの活用などが挙げられる。障害は「身体障害」として法律的にも社会的にも比較的容易に認められ,最終的に病前と同じ生活は困難であるとしても,復職を果たし,より広いコミュニティの中で質の高い生活を獲得・維持・拡大していく。この過程すべてがリハビリテーションである。
高次脳機能障害を有する場合も同様に,医学的リハビリテーションからスタートする。そして,社会的なリハビリテーションへと移行し,より質の高い生活の獲得を指向する。しかし,脊髄損傷の場合と同じように障害を見極め,残存機能を強化し,ADLを獲得すること,そして障害が社会的に理解され,コミュニティの中で質の高い生活を送れるよう展開することは容易ではない。
高次脳機能障害は,脳の器質的な損傷により,正常な脳の働きが損なわれて生じる行動や認知に関する障害の総称である9)。脳機能は非常に複雑で,障害の現れ方もさまざまである。そのため,障害された機能と保存された機能との見極めは難しい。デバイスの使用も,歩行障害の程度に応じて杖あるいは車いすの適合を考えるようなわけにはいかない。たとえば,記憶障害に対しボイスレコーダーやメモリーノートを使用するなど,ハード面での適応があったとしても,それらが真に障害の代償手段となるためには,ソフト面の介入が不可欠だからである。
本稿では,高次脳機能障害を脳の器質的な損傷により生じた行動・認知の障害全般ととらえ,行政用語の「高次脳機能障害」の定義とは異なることをお断りしておく。以下,高次脳機能障害者が最初に取り組む,医学的リハビリテーションについて述べる。まず病因や病期による構えの違いを概説し,次に医学的リハビリテーションの実際について,自験例を挙げる。最後に,高次脳機能障害における医学的リハビリテーションの課題についてふれる。
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