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身体活動度と癌発生リスクとの関連を検証する研究
日常の身体活動(仕事,家事,通勤,趣味などの「生活活動」と体力の維持・向上を目的として計画的・意図的に実施する「運動」の合計)が,健康の維持・増進や癌など病気の発生にどのように関連しているのかを明らかにするための研究には,大きく分けて,動物やヒト培養細胞を対象とした実験室研究と人間集団を対象とした疫学研究の2つがある.実験室では,例えばネズミに運動の負荷を単独,あるいは化学発癌物質などとともに与え,腫瘍発生との関連を検討する.この方法では,ある特定の条件下での運動の発癌モデル動物における影響を正確に評価することはできるが,複雑な環境下で生活し,遺伝的にも多様な人間には,動物実験での知見をそのまま当てはめることはできない可能性がある.特に,身体活動という社会・心理的要因をも抱合する人間の行動が健康へ及ぼす影響は,運動を強制的に負荷された動物と同等には評価できない.
これに対し,人間集団で実際に起っている事象を統計学的に検証する科学的方法が疫学研究であり,主に,症例対照研究とコホート研究という手法がある.症例対照研究では,癌に罹患した患者群(症例群)と罹患していない人たち(対照群)の身体活動量を後ろ向き(過去に向かって)に調査して比較する.また,コホート研究では,数万人規模で身体活動度を調査し,癌の発生率を前向き(未来に向かって)に調査して比較する.いずれにしても,整った条件下での実験ではなく,複雑な生活環境の中での観察型の研究という限界があり,身体活動量の多い人たちが,ある癌になりやすい,あるいは,なりにくいという知見が観察された場合,偶然・バイアス・交絡などの要素が入り込む余地をできるだけ取り除いたとしても完全には排除できない.
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