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1.はじめに
近年,失語症者に対するリハビリテーションは,言語機能回復を重視する立場のみならず,実生活でのQOL(quality of life)の向上や失語症者を取り巻く環境の改善を重視する立場が注目されるようになった.
WHOは,1980年に策定した国際障害分類(以下ICIDH)を2001年に国際生活機能分類(以下ICF)として改定した.ICIDHは,障害によって生じるマイナス面を機能・形態障害,能力低下,社会的不利として分類したのに対し,ICFは,生活機能というプラスの視点から心身機能・身体構造,活動,参加として分類した.また,ICIDHの疾病に代わり,ICFでは健康状態という概念が取り入れられたほか,背景因子として,個人因子と環境因子の観点も新たに加えられた.生活機能の低下は,それぞれ機能障害,活動制限,参加制約とされ,それらの総称を障害と呼ぶ.ICFでは,機能障害を改善しなければ活動制限や参加制約を改善できないと一方向的に考えるのではなく,生活機能の3レベルが,健康状態や背景因子との間で相互作用することを重視している.障害を改善できない場合でも,活動に直接働きかけることによって,それを向上させることができ,相互作用によって参加制約と機能障害をも改善できるとする観点は,リハビリテーションに大きな変革をもたらした(佐藤 2002).
また,ICFの策定に先立ち,2000年のASHA leaderに掲載されたLPAA(Life Participation Approach to Aphasia)宣言では,失語症者のコミュニケーションの権利を擁護するために,失語症の臨床および研究は,失語症者とその周囲のすべての人々のQOL向上と社会参加の促進を重視して,実生活で生ずる具体的な問題に取り組むべきであると提唱している(The LPAA Project Group 2000).
このような経緯には,失語症や身体の麻痺などの諸問題が一時的なものではなく,生涯にわたって永続するという認識の変化がある.それによって,障害とともに生きるという視点が重視されるようになり,従来のリハビリテーションでは,機能回復訓練の成果が実生活に反映されにくいことや,社会参加への支援が不十分であるなどの諸問題が顕在化してきた.特に,社会参加への支援では,ICFで新たに環境因子が加えられたように,障害者を取り巻く物的ないしは人的環境だけでなく,社会的な制度や福祉サービスなどの社会環境の整備も問われている.
以上のような状況を踏まえ,我孫子市では,失語症者のコミュニケーションの機会の拡大と社会参加を促進することを目標に,失語症会話パートナーの養成と派遣事業を実施している.本稿では,その取り組みの経過について紹介する.
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