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Ⅰ.はじめに
言語聴覚士におけるリスクマネージメントとは,安全意識や危機管理知識・技術を職種間で共有し,安全で有効なサービスを提供するためのシステムおよび一連のプロセスを意味する.リハビリテーションの対象者の多くは運動器の障害や様々な合併症を有し,本質的にハイリスクの領域といえるが,一方で転倒や合併症のリスクを恐れて活動性が低下すれば廃用に陥るリスクがあるとともに対象者にとっては不利益につながるため,リスクマネージメントは不可欠である(前田ら 2005).
言語聴覚士の業務においても,1)摂食嚥下訓練や人工内耳の調整など,診療の補助業務の高度化,2)介護保険施設における高齢者,あるいは軽度発達障害など利用者,患者層の多様化,3)運動・認知障害,医療機器装着などのリスク要因を伴う患者の増加など,事故が生じやすい条件が増大してきており,安全確保の重要性は高まっている.また,言語や聴覚に障害をもつ方を対象とする言語聴覚療法の特殊性を考えると,人格や精神的側面に配慮した適切な働きかけや十分な説明などが必要(小島ら 2005)であり,言語聴覚士におけるリスクマネージメントの枠組みとして安全だけでなく安心・信頼・信用の確保も重要な課題である(表1).
しかし,言語聴覚士の業務に関するアクシデント・インシデント事例の集積,事故発生要因の整理と分析,対策の実施と評価などの基礎的な資料は乏しい.日本言語聴覚士協会リスクマネージメントワーキンググループでは,2004(平成16)年から,正会員を対象に『言語聴覚士のリスクに関するアンケート』による実態調査を行っており,今回この結果を中心に言語聴覚士の業務に伴うリスクおよび対応策の現状と課題について報告する.
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