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私の仕事のひとつは映画を生んで(制作して),育てること(配給,宣伝,頒布)だ。つまり自分で作った映画は,永遠に縁の切れないわが子同然なのだ。その映画の子の1人『トントンギコギコ図工の時間』は,2004年生まれの15歳。主人公は東京都品川区立第三日の小学校の1〜6年生までの子どもたち。子どもたち一人ひとりに自分の世界があって,そんな彼らが週1回の図工の時間を通じて自分だけのモノをつくろうと夢中になり,とんでもなく自由な発想でモノをつくる。そんな普通の中にある,たましいがキラキラと輝く時間を贅沢に100時間撮影し,99分の映像に編集したドキュメンタリー映画,東京・ポレポレ東中野で劇場公開した。その後日本全国と韓国・アメリカ・イギリス・スペイン・イタリアで上映された人気者だ。この子の上映会が先日もあって,大分・別府温泉に母である私も呼んでいただいた♥
子どもである映画と一緒に旅をして,さまざまな土地に生きる人との出会いに恵まれた。そもそも人気の俳優や女優が出てくる作品でもなく,話題のアニメーション映画でも,ハリウッドの大作,オールドファン感涙の名作でもない。普通の小学生の日常生活のドキュメンタリーである。そんな地味な映画のために苦心して資金と人を集め,上映してくれる尊い人たちが今も日本中にいることに感嘆し感謝する。彼女と彼らは,映画を上映するだけでなく,地域の人とのつながりを温かく強くすることも大切にしている。それは口で言うのは簡単だが,一筋縄ではいかない難しいことなのだ。だって人間は皆個々の楽しみや悲しみ,苦しみをかかえて生きている。たまたま同じ地域,隣近所に暮らしているとはいえ,違う物語を生きている。その違う物語を重ねて,一緒に何かしよう,もっと温かい気持ちを深めようと言われても,おいそれとは,ねえ。しかも長く継続して深めていくためには,つながる各人に寛容と忍耐,そしてユーモアが必要だと思う。私は日本中でそういう人たちに出会い,笑わせてもらって,学ばせてもらっている♥
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