連載 おもちゃが拓くリハビリテーションの世界・第4回
高齢者とおもちゃ—ストーリー・テリングとストーリー・メイキング
鷲田 孝保
1
1東京おもちゃ美術館
pp.674-677
発行日 2016年10月15日
Published Date 2016/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5003200471
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はじめに
高齢者が,乳幼児や青少年,壮年と異なるのは,長い人生の歴史を背負っているところであろう。過去の人生の経験を織り込んで,今がある。まるで,織物をみるようである。生まれた時から続いている生命の経(たて)糸,日常の中で横切っていった横糸が,その人だけにしかない,その時でしか織れないような人生の模様を創り出していく。高齢者になった今,自分が織ってきた,人生の織物について,だれも尋ねてくれない。自分でもすでに忘れてしまっている。織物は巻かれ,封印され,ベッドの中や,あるいは納戸にしまわれたままになっている。
織物を解いて,広げながら,『○○さん。この明るい模様はどんな時だったのですか。話してもらえますか?』と,輝いていた人生について,尋ねたら,はじめは戸惑って見えても,その時のことを今そこにいるかのように鮮明に語ってくれる。誰でも,人生の中には輝いていた時があり,得意になって語りたい出来事がある。筆者は高齢者との出会いの中で,これまでびっくりするような事例をたくさん経験してきた。
さて,“おもちゃ”は,高齢者の物語に,これまでどのような意味を与えてきたのだろうか,また,これからどのような意味を加えていくのだろうかということが,今回のテーマである。
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