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高齢者ケア従事者のストレッサー
高齢化が急速に進行している日本では,高齢者福祉施設や事業所とそこで働く高齢者ケア従事者も増加してきている。その一方で,高齢者ケア従事者は他職種に比べワークストレスを抱える傾向が高いと言われている1)。それでは,高齢者ケア従事者に特徴的なストレッサーとはどんなものがあるだろうか。Dunnら2)が英国のナーシングホームで働く介護職員を対象に調査した結果,「低い給料」「人員不足による勤務シフトの困難と業務量の増大」「介護時の身体的負担」「仕事上の管理体制の乏しさ」をストレッサーとして指摘している。国内では,矢冨ら3)が「低い給料」「介護・事務的仕事の過重な負荷」「利用者との葛藤」「夜勤」「身体的ケアの過重な負荷」を挙げている。この他,高齢者ケア従事者にみられる高いストレッサーとして,「セクシャルハラスメント」「利用者とのトラブル」「多忙のため利用者に十分対応できない」「利用者の問題行動」「施設側からの現場を無視した要求」「休憩時間のとりにくさ」「利用者どうしのトラブルの調整」などが挙げられている4)〜7)。無作為に抽出された,全国の認知症対応型共同生活介護事業所および介護老人福祉施設1,000カ所,796名の介護職者を対象に筆者が調査を行った結果,得点の高かったストレッサーをみると,利用者が何度も同じことを訴えたり,こちらの言うことが利用者に伝わらない,といった「利用者との葛藤状態」が挙げられる8)。次に,利用者の疾病や行動障害のために目が離せないという負担の大きさ,仕事が多く時間に追われ,残業をしなければならないといった「業務過負担」,職員間で意思の疎通がうまくいかないというような「職員間での葛藤状態」が高いストレスを示していた。これらのことから,利用者や同僚とのコミュニケーションという,業務の質的な難しさがあるにもかかわらず,量的な過重負担のために余裕がなくなるという点において,高齢者ケアがストレスフルな仕事であることを示していると言えるのである。
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