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本書には,脳卒中後の患者のリハに携わる,さまざまな状況下で働くすべてのOTが参考にできる知識が含まれている。1〜5章は,脳卒中の対象者にかかわるための基礎的な医学的・心理学的・行動学的な概念が,6章以降には,それらの概念を作業療法場面にて昇華するための具体的方法論が記載されている。方法論の範囲も非常に広く,OTが頻繁にかかわる日常生活活動・余暇参加・自動車運転・家屋評価や住宅改修・上肢麻痺・浮腫に対する作業活動に焦点を当てた対処法から,歩行・シーティング・嚥下・性機能と愛情行為・患者の傷病記まで多岐に亘っており,患者の生活活動を見据えた作業療法の実現を援助する内容となっている。この中でも,従来のリハの枠組みの中で,特に「機能」に焦点が当たりがちな脳卒中後の上肢麻痺についても,作業活動を通し,「機能」「活動」「行動」に大きな改善をもたらし,かつヒトの人生に焦点を当てた介入に言及している点が秀逸である。
作業療法における有名な仮説の1つにMary Reilly氏の“Man, through the use of his hands, as they are energized by mind and will, can influence the state of his own health.”(ひとは心と意思に賦活されて両手を使うとき,それによって自身を健康にすることができる)という言葉がある。本書の内容は,まさにこの仮説を実現するために,作業活動に焦点を当てた「ヒトを中心とした上肢機能訓練」と言えるだろう。また,全編を通して,訓練効果を示す「アウトカム」にも言及している。アウトカムは,作業療法の最大の長所であり短所でもある「ナラティブ」な部分を,「ロジカル」な現代医学に適応するために重要なツールである。眼前の患者に対する個別の手法と作業療法としての疫学的な効果,そのどちらをも見据えた書物となっている。なお,訳本のため,意訳も多く含まれており,原著と照らし合わせて読むと,なお正確な理解が進むだろう。
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