連載 感性の輝き・第26回
美味しく食べること,スッキリ出すこと,それを手伝うこと
柴﨑 美紀
1
1杏林大学保健学部看護学科
pp.610
発行日 2015年8月15日
Published Date 2015/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5003200187
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看護師になりたての頃のことである。いつも決まって私の勤務時間に便意をもよおす患者さんがいた。ある時「いつも悪いわね。あなたは嫌な顔をしないし,嬉しそうに手伝ってくれるから,我慢して待っているのよ」と言われた。何をやっても半人前で,毎日落ち込んでいたその頃に言われたこの言葉は何よりも嬉しくて,ますます喜んで便器を抱えて飛んでいくようになった。この際だから究めてやろうと思って,便器の種類,当てる角度や便座を温めるお湯の温度,日々工夫を重ねた。我慢はしないでほしいと思い,自分が休みの時は,「○○さんにお願いしているから,遠慮しないで呼んでくださいね」と,やさしい先輩看護師に引き継ぎをしておいた。苦笑して引き受けた先輩は,私の予言した時間に排便コールがあったことに驚いていて,私はちょっぴり鼻が高かった。
同じく新人の頃に出会ったある患者さんは,がんの終末期で食欲はどんどん落ちていき,「病院の食事が好みに合わず,喉を通らない」とつらそうにしていた。ある日,実家の母が送ってくれた差し入れの小包の中に入っていた,ちょっと高級なコーンスープの缶詰が美味しかったので,「よかったらお1つどうぞ」とお裾わけをした。翌日「レンジでチンして飲んだらとても美味しかった」と涙を流して喜んでいた。それが呼び水になったのか,亡くなる直前までいろいろな缶詰のスープを飲んでいた。どちらも20年以上前の話であるが,美味しいものを食べることと,スッキリと便を出すことは,どんなに病気でつらい時でも人を幸せにできることだと知り,看護師としてずっとこだわっていこうと思った。
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