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はじめに
脊椎は転移の好発部位であり,がん患者の約30〜50%が生前に脊椎転移を経験するとされる.近年のがん治療の著しい進歩によりがん患者の生存期間が延長した結果,脊椎転移の発生頻度も増加している.脊椎転移患者の約20%が脊髄圧迫や脊柱の不安定性をきたし,耐えがたい疼痛や麻痺などの重篤な骨関連事象(skeletal-related event:SRE)を呈する.脊椎転移手術は,こうしたSREを改善・予防し,患者のADLやQOLを維持するために行われることが多く,また,必要に応じて局所根治を目的とした腫瘍脊椎骨全摘術(total en bloc spondylectomy:TES)が実施される場合もある.
しかしながら,こうした手術は高度な技術を要することが多く,さらには患者の全身状態や腫瘍特性などの影響により周術期合併症のリスクが高いという課題がある.合併症の発生率は5.3〜76.2%と幅広く報告されており14,22),より侵襲性の高いTESでは67.1%に達するとの報告もある5).また,がん患者の生存期間の延長に伴い,脊椎転移の標準治療として行われる放射線治療後に転移が再燃し,あらためて外科的介入が必要となるような症例も増えている.こうした症例では,放射線照射の影響により従来よりもさらに悪条件下での手術となることを念頭に置く必要がある.
周術期合併症には,感染などの創部合併症,出血,インプラント関連合併症,神経障害といった外科的合併症のほか,肺炎や尿路感染症,深部静脈血栓症,せん妄といった全身的な合併症も含まれる.これらの合併症は治療成績や患者の予後に大きな影響を及ぼすため,術前のリスク評価と適切な対策の実施が不可欠である.本稿では,脊椎転移手術における主要な合併症とそのリスク因子を整理し,合併症を回避するための実践的な戦略について,当科での経験や取り組みを踏まえて概説する.
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