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はじめに
腰痛の生涯有病率は83%と高く6),そのうち22〜42%が椎間板変性に起因する椎間板性腰痛であると推定されている5,20).また,椎間板変性は変性すべり症・腰椎椎間板ヘルニアなどの病態へも関与する.椎間板自体に再生能力がなく椎間板変性は不可逆であるため2),対症療法としての薬物治療や脊椎の可動性が失われる固定術に代わる「椎間板変性自体を治療する再生治療」の開発が望まれる.椎間板変性は髄核の変性が端緒となり生じるため,椎間板の再生治療研究は髄核の再生に主眼が置かれている.
髄核は加齢に伴い,肉眼的にも組織学的にも大きく変化する興味深い組織である.髄核は発生学的に脊索から分化し,新生児期には空胞を有し集簇する脊索様髄核細胞で占められているが,加齢とともに軟骨細胞に類似した形態を有する軟骨細胞様髄核細胞の構成割合が増加する.10歳を超えると髄核から脊索様髄核細胞は消失し軟骨細胞様髄核細胞のみで構成されるようになり4,12,18,19),肉眼的にもゲル状から軟骨様組織へと劇的に変化する14).この髄核における構成細胞の変化は,髄核を取り巻く周囲環境の変化に起因すると考えられている.椎間板は人体最大の無血管組織であり,胎生早期に髄核は無血管領域に隔絶され,低酸素・低栄養状態に置かれる3).この環境に適応し,かつ恒常性を維持するために細胞形態が変化すると考えられており,髄核再生治療において過酷な椎間板内環境を克服することが重要な課題の1つといえる.
また,椎間板再生の治療戦略は椎間板変性の進行段階によって異なり,生存細胞数が多く椎間板構造が保たれている変性初期ではサイトカインや遺伝子治療により椎間板内の生存細胞に対して細胞外基質の産生を促進させる治療戦略が,生存細胞がほとんど存在せず椎間板構造も破壊されている重度の椎間板変性に対しては椎間板全体の再建を考慮した組織工学の手法が用いられる10,13).本稿では,生存細胞は減少しているが椎間板の構造が保たれている中等度の椎間板変性に対する治療戦略となる細胞移植治療について,特に人工多能性幹細胞(iPS細胞)を用いた細胞移植治療に関する最新の知見を述べる.
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