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はじめに
何らかの症候がある際に,その責任病巣がどこにあるかを診断する局在診断・レベル診断は,患者の治療にあたるうえで,また特に外科的治療が考慮される際にきわめて重要である.責任病巣が脊髄・末梢神経のどこにあるのかというのが今回の特集企画のテーマであるが,それ以外にも,脳にあるのか,筋にあるのか,はたまた,どこにもない(機能性神経障害,いわゆるヒステリーなど)のかを診断する必要がある.
本邦では,CTやMRIといった画像診断装置の人口あたりの普及率が,OECD諸国との比較でも圧倒的な首位である13)ことも影響してか,局在診断には画像検査が中心的な役割を果たしている場合が多いかもしれない.局在診断に電気生理学的検査を用いていないという脊椎脊髄疾患診療医も少なくないだろう.しかし,たとえば手のしびれの訴えがある患者で実施した頸椎MRIで画像検査での異常を同定しても,それすなわち責任病巣と判断して外科的治療に進んでしまうことはきわめて危険である.頸椎では無症候の健常者においても加齢に伴って頸椎症と区別できない所見が少なからずみられる3)ため,異常のみられた部位が本当に治療対象としている症候の責任病巣なのかを判断しなくてはならない.頸椎MRIで異常をみつけ,同じ頸髄レベルでの障害というところまでは(たまたま)当たっていたとしても,違う神経根の障害かもしれない(画像上の障害度が最も目立つ部位が責任病巣でないことはしばしばある)し,手根管症候群や肘部管症候群かもしれないし,はたまた脳疾患(中心前回や中心後回付近の病巣は手単独の症候を呈し,特に脳梗塞では決してまれな症候ではない)かもしれない.また逆に,機能的な障害を呈している部位で,形態的な異常が画像検査で捉えられず,電気生理学的検査で唯一証拠をつかめたということもしばしばある.
局在診断において最も重要なのは,まずは詳細な問診と診察であるのはいうまでもない.これを補助する役割を担うのが,電気生理学的検査による機能的障害の評価である.電気生理学的検査を局在診断のために用いている施設の中には,ルーチンで広範な検査を行っているところも少なくないと思われる(ルーチンでの四肢の神経伝導検査や,両上肢5筋ずつの針筋電図など)が,われわれは必ずしも推奨していない.特に医師が検査を実施する場合は,(神経筋電気診断に精通している)検査担当医が,依頼医とは別にあらためて問診と診察を行ったうえでの検査前診断から,検査計画を立案して必要な検査項目を絞り込み(ないし依頼内容に追加し),さらに検査中には得られた結果の解釈から,検査計画を臨機応変に変更・追加するべきである.こういった姿勢で電気生理学的検査を実施することで,正しい局在診断に迫ることができる.もちろん,広範な検査を実施することは,異常所見の検出感度を増すことは間違いなく,それが何らかの診断の助けになることも当然あるだろう.一方で,検査の異常所見の判断・活用には,十分に検討された検査前確率がきわめて重要であることは,昨今のCOVID-19における検査の議論でも広く認識されるようになった.特に侵襲性が高い針筋電図検査を中心として,電気生理学的検査も,必要性の低い検査を実施し過ぎないことも重要である.
本稿では,局在診断を行ううえでの各種電気生理学的検査の実施や解釈のポイントについて,それぞれの検査ごとに解説する.
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