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はじめに—脊髄障害におけるリハビリテーション
ヒトが随意運動を行うときの効果器(effector)は運動単位(motor-unit)であり,1つの運動ニューロンとそれが支配する筋線維から構成される(図 1b).中枢神経系は脊髄上行路の情報を得て,適切な随意運動命令を,脊髄下行路により運動単位に伝え,その活動頻度および動員される運動単位数により随意運動をコントロールする(図 1a).脊椎・脊髄疾患では一般に,外傷,血管障害,自己免疫疾患,腫瘍および神経変性により,運動単位,脊髄下行路,脊髄上行路のいずれかまたはすべてに病変が起きて,随意運動が十分にできなくなる(図 1b).随意運動を行うためには,実際に行われた運動現象と運動意図との差異を固有感覚(proprioception)により評価しそれをフィードバックして巧緻な運動命令に変えていく必要がある(図 1a).
傷害された脊髄の運動単位,下行路,上行路病変を治すための治療法は,今まで十分に研究開発されてこなかった.その理由は「神経系は自己複製能力のない一生涯同じ神経細胞により構成される(Bizzozero, 1893)」「神経細胞の軸索と樹状突起の成長と再生の泉は,いったん発達が終わると不可逆的に枯れてしまう(Ramón y Cajal, 1913)」のように,神経系は治せないと考えられてきたためである3).最近,ようやく神経系にも可塑性や再生能力があることがわかってきた3).しかし,その再生能力や可塑性を賦活させることが困難であることには変わりない.神経系は治せないが末梢器官としての筋は再教育できるという考え方は間違っている.筋活動は随意運動として行われるため,そこには運動単位の可塑性と運動単位を制御するための脊髄下行路の可塑性が必要であり,その制御のために,四肢の固有感覚(proprioception)を中枢に伝える感覚神経と上行路の可塑性が必要となる(図 1a,b).
機能の修復/回復に関しては混乱がある.細胞レベル,組織レベルでの修復/回復が目標なのか,ほかの機能で代償させることが目標なのかが定まらないまま研究が行われてきた.現時点では,直接細胞レベルでの修復できた場合もできない場合も,一度失われた機能の回復(recovery)とは生体にとっての新たな学習(learning)であり,大脳皮質マップの変化,シナプス接続や効率性の変化などが関係すると考えられる10).運動機能の回復とは,大脳皮質,脊髄下行路,上行路,運動単位のすべてが,細胞レベル,組織レベルの修復とともに,新たに機能を学習していく過程ということができる.この学習を促進させる治療法の開発研究が脊髄障害におけるリハビリテーション研究の中心である.
本稿では,まず,今までの脊髄障害における歩行運動療法やその原理をネコからヒトまで振り返り,次にHybrid Assistive Limb(HAL)(HALはCYBERDYNE社の登録商標である)を使ったサイバニクス治療が神経可塑性を賦活化し,機能再生のための運動学習として優れていると考えられる理由やその実践結果について論じる.
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