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はじめに
医師の働き方改革報告書が提出された6).基本理念として,「我が国の医療は,医師の自己犠牲的な長時間労働により支えられており,危機的な状況にあるという現状認識を共有することが必要」と述べられている.2024年4月までに,時間外労働を1年あたり3,000時間から1,860時間にまで減らすことを目標に掲げている.ただ単純にこの目標を達成するには,医師が現在の仕事を約2倍の速さでこなす必要が出てくる.しかし,少子高齢化で,対応すべき高齢患者の変性疾患はなお増える見込みである.同時に,減少した働き盛り世代の外科手術に対する低侵襲化の要望は高まりそうである.これらの医療情勢にもかかわらず,外科系医師の減少は,内科系医師のおよそ2倍をさらに超えてくるであろう.今こそ,手術を取り巻く環境を劇的に変え,患者の負担のみではなく外科医の負担も減らすべき時なのである.そこで,われわれは手術の数値化を基礎に,手術のロボット化を脊椎外科分野でも進め,最終的には手術の自動化を目指して研究や開発を行っている.
外科手術の発展は,近年,内視鏡の活用により,術野展開の最小化で患者の術後の痛みを軽減することを最優先課題として遂げられてきた.新技術開発成功の大原則は患者の生活を改善するために行うのだといわれている12).この大原則を外さない場合,外科医にとってたとえ都合が悪くても,その発展は止まらない.極端な言い方をすれば,外科医が従来法よりも安全ではないと感じても,器械の自由度が低く操作性に劣ると感じても,患者の生活を改善するという大原則さえ達成していれば,新たな器械は生き残る.安全でなければどうすれば安全になるのか,操作性が劣るのであればどうすれば操作性が上がるのかを検証し,患者の生活を改善することを妨げない範囲で改良を進めるのが現実の流れとなる.教育研修の仕組みをつくり上げ安全性を高めること,操作性に優れたデザインの器械を開発することは,脊椎外科でも学会や研究会を交え,その構成員らの公私にわたる努力により実施されている.そして今新たに,工学系・情報系知見の医療現場への応用が,医工連携のチームをもとに進められ,チームが機能し,成果をあげ始めている.
本研究では,まず,日本における腰椎椎間板ヘルニアの外科治療の現状,ロボット外科の現状,医学に応用可能な工学分野の技術の現状に触れる.次に,一般的な開発の流れおよびわれわれの開発案件の現状を述べ,それらを踏まえた開発事業の問題やそれに対する対処について説明し,10年後の日本の脊椎外科の到達点を推測する.
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