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今年に入って,老人の交通事故が多発し,マスコミを賑わせているが,自動車を取り巻くさまざまな環境の変化は脊椎外科の領域と似ているように思う.1990年代になり,より詳細な地図情報とGPSによる正確な位置情報が得られるようになり,カーナビゲーションは一気に普及した.運転中に地図を広げる必要もなく,地図をみるのが苦手な人でも安心してどこにでも行けるようになった.脊椎手術におけるナビゲーションでも同様である.マルチスライスCTが登場し,短時間に広い範囲を高分解能で撮影できるようになり,詳細な画像データ(いわゆる地図情報)を獲得できるようになった.また,CCDカメラやソフト(GPS機能)の進歩により,手術用のナビゲーションの精度も格段に向上した.最近では,O-arm CTやArtis phenoなどのような術中CTを用いたナビゲーションやイメージによる2Dの画像を用いたナビゲーションも可能となっている.画像も昔とは比較にならないほど鮮明で大きな画面に表示されるようになり,まさにアナログから地デジになったようで,隔世の感がある.さらに,術前のシミュレーションも可能となり,不慣れな手術や難易度の高い手術がいっそう,安全に行えるようになった.その一方で,自動車と同様にいくつかのリスクをはらんでいるのではないかと危惧している.
最近,「ナビゲーション通りに運転していたら,知らないうちに高速道路を逆走していた」とか,「自転車に乗っていた人がナビゲーション通りに運転していたら,知らないうちに高速道路に入ってしまっていた」などというニュースがあった.馬鹿げた話のように感じるかもしれないが,私自身も初めて行った場所で,危うく対向車線に進入しそうになり慌てた経験がある.手術でも似たようなことが起こる可能性があるのではないかと思う.今,ナビゲーションを用いて手術している多くの人は,ナビゲーションのない時代に苦労して手術をしてきた経験があり,ナビゲーション使用時のエラーにすぐ気づくことができると思う.また,最悪の場合,ナビゲーションがなくても手術することが可能だろう.しかし,これから先,ナビゲーションのない手術をあまり経験していない人たちは大丈夫なのだろうか? 取り越し苦労なのかもしれないが,いらぬ心配をしてしまう.
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