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はじめに
手術用ナビゲーションシステム(ナビ)は,手術中に操作している骨と手術器具の正確な3次元的位置関係をわかりやすく表示することを目的としたコンピュータ支援技術の1つである.術野のある一点が,患者の骨のどこに当たるのか,ある手術器具が患者の骨内をどの方向へどの深さまで進んでいるのかなど,実際の術野では正確に把握できないことをモニターの仮想画像上で教えてくれる.多くはモニター上に示される位置と真の位置との違いが1mm以下の精度である.車窓からの情報しかないドライバーに,地図上のどこを走っているのか,目的地までの距離やコース,途中に何があるのかなどを俯瞰的に示してくれる車のナビと似ている.車のナビが2次元(地図)上でのオリエンテーションをつけてくれるのに対して,手術用ナビは3次元的な位置関係を示してくれる.
現在脊椎外科で最もよく使われているのは,術前に撮影したCT(主に骨の情報)上に手術器具の位置を示す,術前CTベースナビ(術前CTナビ)である.
ナビの基本的な構成は,位置感知システムと高速画像処理を行えるワークステーションからなる.位置感知システムでは,手術器具と対象とする骨とのそれぞれの3次元的位置情報が,光学方式のステレオカメラによって認識される.リファレンスフレームと呼ばれる(メーカーによってリファレンスアレイともトラッカーとも呼ばれる),ステレオカメラによってその空間的位置が認識できる器具を術野の骨に取りつけることによって,コンピュータに患者の骨のリアルタイムな位置情報が伝えられる.リファレンスフレームには3〜4個のマーカーがついており,それをステレオカメラが認識するのである.術前CTナビではリファレンスフレームの取りつけ後,レジストレーション(位置合わせ)と呼ばれる操作を行う.これにはポインターという,マーカーのついた先端のとがった棒を用いる.ポインター先端の3次元的位置もマーカーを通してステレオカメラによって認識できるようになっており,対象の骨の表面の20〜30点をポインター先端で触れることによって,術前CTの骨表面とポインターで触れた実際の骨表面が,コンピュータ内でできるだけ完璧に合うよう調節される(ポイントレジストレーション).それによって,取りつけたリファレンスフレームと対象となる骨の3次元的位置関係がコンピュータによって把握される.したがって,ポインターで触れる骨の表面が広く,かつ凹凸が大きいほうがコンピュータは正確に合わせやすく,レジストレーションの精度が上がる.レジストレーションが終わると,コンピュータは骨(に装着されたリファレンスフレーム)とポインター(またはステレオカメラで認識できる手術器具)のそれぞれの3次元的位置を把握できるため,骨が動いてもモニターの仮想画像上でポインターと骨との位置関係を常に示すことができるようになる.モニター上では3次元画像だけでなくその任意の断面像を得ることができ,それらの画像を参考にドリルや螺子の方向を決めることが可能である.
最近では,術中にCTライク画像を作成できる高精度のCアームやOアーム®が出現し,さらにCTそのものが手術室に備えつけられるようになってきた.これらにナビを組み合わせると,手術室でCTまたはCTライク画像を撮影後,レジストレーションなしにナビが可能となる(intraoperative CT〔ICT〕ナビ).ステレオカメラが撮影前の撮影機器(CTなど)の位置と,患者に装着されたリファレンスフレームの位置を把握し(図1),その後その位置から撮影された骨とリファレンスフレームの3次元的関係を瞬時に計算するからである.この方法を使うと,レジストレーションのために骨表面を広く露出する必要がなくなり,またポインターで触れることのできる骨が小さかったり平坦であったりして術前CTナビではレジストレーションが不可能であった症例でもナビゲートできる.元来ナビの応用が難しかった頸椎の前方手術,椎弓切除後でレジストレーションのメルクマールとなる棘突起などがない後方再手術,また骨を露出しない経皮的椎弓根螺子刺入(percutaneous pedicle screw:PPS)などでもナビゲートが可能となる(図2).
以上のように,どんどん進歩しますます使いやすく正確になっているナビではあるが,逆に器械頼みとなってしまい,思わぬ落とし穴に陥る可能性がある.この稿では,ナビを使ううえで必ず心に留めておくべき事項について述べる.ただし,ナビの技術は今も進化中であり,ナビのソフトや術中に使用する器具もメーカーによって違う.また,脳神経外科用や耳鼻咽喉科用のナビでは磁場を利用するなど原理の違うものもある.したがって,これから述べる細かな技術や手順にエビデンスを示すことは難しく,下記の留意点はあくまでもわれわれの経験に基づくものであることをお断りしておく.われわれが使用しているナビはブレインラボ社製のCurveシングルディスプレイ ナビゲーションステーション,ICTはSiemens社製の128列SOMATOM Definition AS+Sliding Gantryである.
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