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もともと早起きが得意で,受験勉強も朝にするタイプではあったが,年を重ねるにしたがってますます早起きに拍車がかかっている.休みの日でも4時過ぎには目が覚める.もちろん目覚まし時計などは縁がない.健康のために毎朝ウォーキングをして,1日トータルで10,000歩を目標にしているが,過去1年の平均は12,000歩を優に超えて,家内にも得意顔を見せている.もちろん悪天候のときもしかりである.さて,どこを歩くかであるが,季節によって港周辺であったり,アーケードであったり,ときには公園であったりと,変化をもたせている.小生の居住地は長崎県佐世保市で,日本海軍とゆかりがある町である.日露戦争での日本海海戦後に東郷平八郎がロシアの司令官の見舞いをしたのも当地であり,それらに関連する場所も少なくない.現在ではアメリカ海兵隊の基地,海上自衛隊の基地などがあり,港の風景は変化に満ちている.周辺には離島も多く,海産物はもとより,野菜なども豊富に収穫されている.そのような中,朝の散歩で最も楽しめるのが朝市である.朝市といえば,岐阜県の高山や石川県の輪島などが有名であるが,佐世保の朝市もなかなかのものである.朝市に横付けされた漁船からは採れたての魚介類が運び込まれ,農家の生産者が旬のものを並べている.春夏秋冬の変化を最も早く感じられる場所である.販売する人は普段は漁業や農業を専門にしている.顔見知りも多く,もちろん治療した患者さん本人であったり,その家族であったりさまざまである.家を出るときにはちょっとした買い物を頼まれ,トマトや玉ねぎ,キュウリや大根など,ときには生きたイカやハマグリなどを買って帰る.ただ(無料)で果物などを持って帰れという人もいるが,それは丁重にお断りしている.一度いただいてしまうと,次から何となく散歩コースにするのに気が引けてしまうからである.この感覚は読者の皆さんにもわかってもらえると思う.しかし,量のサービスはときどき受けており,100円玉数枚で両手に袋を抱えて帰る場合も少なくない.持ち帰った食材は朝食の材料としてたちまち胃袋に消えていく.このような習慣はもう30年近くになった.ここでの散歩では,売り手や買い手それぞれ多くの人々とコミュニケーションがとれる.それは楽しい気分転換になるとともに,治療を行ってきた患者さんの真のADLを観察することができる場でもある.そして手術をした患者さんの長期の経過を知ることができ,家族の思いも汲み取ることができる.さらには症状の再悪化をみつける場合もある.
干物を売っている80歳の女性は20年前にリウマチ性頸椎病変で環軸椎固定術を行っている.生物学的製剤でリウマチの活動性は抑えられているが,以前よりも品物を包むのが遅くなり,おつりを渡すのに時間がかかるようになっていた.本人は年だねと言うが,はたしてどうだろうか.ちょいとホフマン反射やトレムナー反射を診てみると,しっかりと陽性である.ついでに10秒テストをすると10回程度.ぜひ外来に来るように勧めている.軸椎下病変か頸髄症の進行かと考える.また,魚を売っている70歳の男性は,多椎間の狭窄で除圧術を行っている.手術時のアライメントは良好であった10年以上の経過例である.トロ箱を抱えているが,後弯がめだっている.手術をしたときはアライメントは問題なかったと記憶している.腰の調子はどう? と問いかけると,まあまあというが社交辞令だろう.少なくとも第三者評価ではない.それでも仕事は続けている.下肢筋力低下はなさそうで,全身状態もきわめて良好と思われる.季節の野菜を売る女性がいる.以前はご主人が売りに来ていた.ご主人は脊椎転移であった.脊椎固定を行ったが,数年前に亡くなった.お世話になりましたと昔を懐かしむように話しかけられるが,会釈を返すことしかできない.
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