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慢性腰痛(非特異的腰痛)は,腰痛の80%以上を占めている.しかし,解剖学的な腰の障害ではなく「生物・心理・社会的疼痛症候群」として捉える必要がある.すなわち,心理的因子と社会的因子を考慮して診察にあたる必要がある.腰だけを診るのではなく,全人格を捉える必要がある.このように,慢性腰痛の診断と治療は容易ではない.病態も複雑である.一般的に慢性腰痛は侵害受容性疼痛・神経障害性疼痛・非器質性疼痛の3つの因子が「生きている痛み」として絡み合って発生している.患者によってどの因子が主体となっているかは異なる.われわれは外来でどの因子が主体なのかを明らかにし,その病態に沿った治療を行う必要がある.同時に,慢性腰痛では治療を始める前に患者ごとに具体的な治療目標を設定する必要がある.具体的には,腰痛の程度,QOLの向上(仕事,旅行,ゴルフなど),睡眠障害の改善,ストレスの管理などの治療目標を設定する.定期的に治療目標がどの程度達成されているかを評価する.達成されていない場合は,再評価を行う.認知行動療法が有効な場合もあるが,認知行動療法に関しては,本特集では若干ふれるにとどめた.少なくとも痛みに対する歪んだ考えや完全主義(全か無かの法則)の患者さんに対しては,患者さんの主張をいったん受け入れたうえで,考え方を少しずつ矯正していくことが治療上重要となる.
近年,慢性腰痛の病態が先人たちの努力により少しずつではあるが,明らかになってきた.それは,大規模な疫学研究や脳機能画像の進歩によるところが大きい.本特集では,慢性腰痛の疫学・病態・病態に基づく治療そしてエビデンスの最も高い運動療法に焦点を置き,慢性腰痛に対する新たな展望を見出すために特集を組んだ.さまざまな立場から慢性腰痛に関する最新のデータを中心に,最もアクティブに研究している先生方に執筆をお願いした.本特集が今後の慢性腰痛の新たな診断法や治療法の開発につながれば幸いである.何よりも,慢性腰痛の患者さんの診察や治療に有効に活用され,慢性腰痛で苦しんでいる患者さんのお役に立てれば幸いである.
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