Nomade
脊椎・脊髄手術に伴う合併症について考える
松本 守雄
1
1慶應義塾大学整形外科
pp.5-6
発行日 2016年1月25日
Published Date 2016/1/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5002200273
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ロマン・ロランの名著『ジャン・クリストフ』に「けっして誤ることがないのは,なにごともなさない者ばかりである」という言葉がある.われわれ脊椎・脊髄外科医は,手術をして患者の痛みや麻痺を改善し,QOLを良くすることが本務である以上,手術の必要がある患者を前にしてなにごともなさないわけにはいかない.ときにリスクがあることを承知で厳しい症例に立ち向かっていく必要もある.しかし,一般的な手術においても一定のリスクがあり,過誤がなくても麻痺の悪化,感染,instrumentation failureなどの合併症で患者の機能を術前より悪化させることもあるし,場合によってはその生命を脅かす事態に陥ることさえある.
2015年10月から医療事故調査制度がスタートした.本制度は医療従事者の過失を問うものではなく,むしろ調査により事故の要因を明らかにし,再発を防止することを目的とした前向きの制度である.原則的に関係者・調査協力者の非懲罰性・秘匿性は守られることが前提となっている.調査対象は死亡が予見されなかった場合であり,提供した医療による死亡の予期について,それを患者に伝えて診療録にわかる形で記載されることが求められているのが現状である.1椎間の除圧を予定している脊柱管狭窄症の患者・家族に「術中に硬膜を損傷することがあり,術後髄液が漏れて感染でもすると命に関わることもあり得ます」と説明したり,以前は「不測の事態」とひとまとめに説明していた術後の全身合併症なども,不測とはいわずに「まれに術中・術後に心臓,肺,脳などの病気が発生して生命に関わるような事態になる可能性もあります」などと説明している.
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