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はじめに
頸椎加齢性変化は万人に起こり得る変化であるが,その発生頻度や経年的な進行の過程などの詳細はいまだ明らかでない.椎間板は最も加齢の影響を受ける組織であり,これまでに椎間板変性の危険因子として喫煙7,8,38),軸圧28),重労働などの職業16),腰椎手術の既往26)などの環境因子が報告されている.一方で,遺伝的要因との関連も指摘されており,CILP49),COL11A137),THBS219)などが候補遺伝子として報告されている.Boosら3)は新生児から88歳までの44例の屍体から180の椎間板を用いて組織学的調査を行った.加齢とともに椎間板内では軟骨細胞の増殖,ムコ基質の変性,細胞死,椎間板の断裂,マトリックス中の好酸性顆粒の変化がみられ,特に椎間板組織への血行減少に伴う終板損傷が椎間板変性のイニシエーションであり,30歳以前でこの変化を生じることを報告している.
臨床研究では,Goreら13)は200例の無症候性健常者の頸椎単純X線を用いた調査を行い,60〜65歳で男性では95%,女性では70%に少なくとも1椎間以上の変性所見を認めたことを報告している.MRIを用いた研究では,Lehtoら30)は0.1TのMRIを用いて89例の健常者の頸椎MRIを撮像した.40歳以上では62%に何らかの変性所見を認めたが,30代以下ではまれであった.Bodenら2)は67例の無症候性健常者の腰椎MRIを用いた調査を行った.この研究では60歳未満では椎間板ヘルニアを20%,60歳以上では椎間板ヘルニアを36%,脊柱管狭窄を21%に認め,MRI上の椎間板変性は20〜39歳で35%,60歳以上ではほぼ全例に認めた.縦断研究としてGore14)は前回調査から10年経過した後に,無症候性健常者200例のうち159例の追跡調査を行い,亜脱臼や変性所見の進行が加齢とともに増加したこと,約15%に頸部痛が発生し,C6-7の変性例で頻度が高かったことを報告している.共著者のMatsumotoは,1993〜1996年にかけて無症候性健常者497例31),外傷性頸部症候群患者508名32)のMRIによる頸椎加齢性変化の大規模な横断調査を行った.無症候性健常者では,頸椎加齢性変化の存在は年齢が高くなるにつれて高頻度となり,10代の男性では17%,女性では12%に異常が認められたが,60代では86%および89%で認められた.
このように,現在までに行われた健常者を対象とした研究の多くは横断的研究であり,加齢性変化の頻度を知ることは可能であっても,変化の過程を明らかにすることは不可能であった.そのため,頸椎の加齢の過程を知るためには,同一症例に対する長期間の縦断的研究が必要とされていた.われわれは,頸椎加齢性変化の過程を調査するとともに臨床症状発現との関連を明らかにすることを目的として,健常者同一症例に対し約10年間の期間をおいて再度頸椎MRIの撮像と臨床所見の調査を行った.また,これらの結果を対照として,むち打ち損傷患者や頸椎前方固定術患者との比較を行った.本稿では,これらの研究結果を紹介しつつ頸椎加齢性変化について概説する.
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