わたしの大切な作業・第50回
ままならなさと物語
小川 公代
pp.481
発行日 2022年6月15日
Published Date 2022/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5001202979
- 有料閲覧
- 文献概要
ケアとは何かについて書く機会が増えてきていることもあり、自分にとっての大事な作業は、このテーマに関係する文章をたくさん読み、多くの映像作品に触れることなんだろうと思っていた。ところが、最近それだけでは十分ではないと感じるようになった。それは、数年前に難病と診断された母と頻繁に対話するようになったからだ。
いくら踠いてもままならない身体から抜け出せない母と、そのままならない身体を想像することしかできない私の間には大きな溝がある。その溝をなんとか埋めようと、苦肉の策として思いついたのが〈物語〉を介してままならなさを言語化することだ。たとえば、先週、母は「かつてなんでもできたころの身体と今の身体はまったく違うが、これはほんとうの自分なのだろうか」と自問自答したので、私はそれを聞いて『不思議の国のアリス』の冒頭場面を思い出した。
Copyright © 2022, MIWA-SHOTEN Ltd., All rights reserved.