連載 往復郵便・第4回
においの物語
榊原 千秋
,
頭木 弘樹
pp.526-527
発行日 2021年7月15日
Published Date 2021/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688201717
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里山に合歓の花が咲くと北陸も梅雨明けです。薄紅色の花に夏の訪れを感じます。
頭木さんからのお便りをいただき、「におい」とお聞きして最初に思い出したのが、人工呼吸器を着けた筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者さんと出掛けた旅のことでした。ALSは、今日できたことが明日できなくなる進行性難病です。やがて呼吸筋に障害が及び、人工呼吸器を着けると嗅覚も失います。その方とは今から25年前に出会いました。「今、一番したいことは何ですか?」と尋ねると、「妻と一緒に能登一周旅行に行きたい」とのこと。それから間もなく、仲間を集めて能登一周旅行に出掛けました。能登半島の入口に「千里浜」という、日本海の波打ち際を車で走れる浜辺があります。その浜辺に降り立ったときのことを、彼は「微かに潮のにおいがした」と旅行記に綴っていました。
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