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Key Questions
Q1:高齢精神障害者にはどのような特性があるか?
Q2:精神科デイケアのフレイル対策プログラムにはどのようなものがあるか?
Q3:フレイル対策プログラムの効果とは?
はじめに
フレイルはFrailtyの和訳である.これまで,「虚弱」,「老衰」,「衰弱」,「脆弱」とも訳され,“加齢に伴って不可逆的に老い衰えた状態”という印象を与えるものであったが,Frailtyには適切な介入によって再び健常な状態に戻るという可逆性も含まれている.Frailtyに陥った高齢者を早期に発見し,必要な介入を施すことにより,生活機能の維持・向上を図ることは可能と考えられている.また「虚弱」という言葉では,Frailtyのもつ身体的,精神心理的,社会的側面等,多面的な要素を十分に表現できているとは言い難い.そこで,2014年(平成26年)2月に日本老年医学会は,Frailtyの認知度を高め,予防の重要性を広く啓発するため,Frailtyの適切な日本語訳の検討を行い,「虚弱」等に代わって「フレイル」と表すこととしている1).
フレイルは高齢者に認められる老年症候群であり,環境因子に対する脆弱性が高まった状態として認識されている.したがって,フレイルが疑われる高齢者に対しては,健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく過ごせる期間)を延ばすためにも,またその人らしい健康的な生活を維持するためにも,今まで以上の配慮が必要になる.フレイル対策には,早期の適切な評価によって生活課題の抽出やその要因を見いだすことや,効果的な予防的介入が必要である.
精神科領域に目を向けてみると,精神障害者の健康状態において,比較的多くの方々に歯や眼の問題,高血圧,糖尿病等の合併症が併発していることに気づく.新村2)の研究では,“高齢になると統合失調症の精神症状は,陽性症状,陰性症状,抑うつ症状とも目立たなくなる.認知機能の加齢性低下は健常者と同程度だが,長期入院群では中年期以降の低下が目立つ.統合失調症患者は,健常者に比べて身体合併症が多く平均寿命は15〜20年短い”としている.精神障害者にみられる活動量の低下,陰性症状や抑うつ状態等が,中年期からの体重減少,筋力低下,疲労感の増加,歩行速度の低下,身体活動量や活動機会の減少(日本版フレイル基準)をきたし,フレイルを引き起こし,要介護状態に至らせ,平均寿命の短縮にも影響しているのかもしれない.精神障害者の平均寿命について,安易にフレイルを起点に短いと論じることに無理はあるが,少なからず健康度に影響を及ぼす一つの要因といえる.通常,フレイルは高齢期の問題として取り上げられるが,精神障害者には精神症状によって健常者より早期にその時期が訪れるリスクがあるのかもしれない.
近年,保健分野のみならず,医療,福祉,介護分野から,フレイル予防啓発として栄養,運動,社会参加の継続を推奨する資料や報告が発出されている.栄養面では,たんぱく質を中心としたさまざまな栄養素をバランスよく摂り,筋肉を減らさない.併せて歯科口腔の定期的な管理が重要であること.運動においては,ウォーキング等で少しずつ骨を強化し,筋力をつけ,転倒を防ぐことや,つま先立ちやスクワット等で下肢筋力維持を図ること.友人や家族とのコミュニケーション,近所付き合い,地域活動等で積極的に人と交流し,社会的なつながりを失わないこと等,日常的に可能な対策を紹介している.しかしながら,健常者にとっては容易と思われるこれらの作業や活動も,精神障害者にとっては,すぐさま生活に取り入れ,継続的に遂行できるわけではない.
精神障害者の特性として,ストレスに弱く疲れやすい,対人関係やコミュニケーションが苦手,複数の情報を一度に説明されると理解が難しい,障害が理解されず孤立しやすい,病気のことを他人に知られたくない,警戒心が強い,自分に関係ないことでも自分に関係づけて考えてしまう等の傾向がみられることがあり,病状によっては判断能力や行動のコントロールが著しく低下することもある.そのような特性を十分に理解したうえで,精神障害者のフレイル対策を講じる必要がある.
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