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はじめに
アフリカで障害を抱えて生活するとなると,その生活はさぞ厳しいだろう,悲惨なものだろうと考える人は多いかもしれない.実際に,アフリカ諸国における障害者に対する支援は,近年西欧からもち込まれたものあり,国家としての対策が十分に個々の障害者世帯に届いている状況とはいえない.たとえば私の調査地であるカメルーン共和国では,1950年代以降,この地を統治していたフランスを手本とする社会福祉が始まり,独立後,国連の後押しのもと,障害者の権利擁護という国際的潮流の中で「障害者(les personnes handicapées)」という枠組みが浸透してきた.国際障害者年の2年後の1983年に「障害者保護関連法」が制定され,1990年に障害者の雇用機会促進のための政令が施行,1993年には障害者手帳の運用が始まり,障害者への社会サービスの枠組みが整えられている1).しかし,地方ではその存在を知らない人も少なくない.手帳交付のためにはまず国家IDカードを取得し,写真を用意し,医師の診断書を書いてもらう必要がある.このような諸手続きを行うことは農村部において一般的でなく,行政サービスは十分に行き届いていない.
こうしたアフリカ諸国が抱える社会的背景を理由に,これまで多くのマスメディアが,貧しさゆえに他者を顧みる余裕がなく,弱者を放置している「ケアしないアフリカ」というイメージを発信してきた.さらに国際機関を通じて,アフリカでは,障害を「呪い」や「罪」と結びつける考えのために,障害者が外部に対して隠蔽され,コミュニティから放置されているという「隠された障害者」像が報告されてきた2,3).
それに対してアフリカでフィールドワークを行った研究者たちは,彼ら障害者は物理的な困難を抱えていることは事実だが,だからこそ相互の関係の中で生きているという姿を提示している4〜6).本稿は,具体的な場面においてその土地に暮らす人々を理解する人類学から,カメルーン熱帯雨林に暮らす障害者と,彼らを取り囲む環境や周囲の人々との関係について考察してみたい.
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