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はじめに
高校卒業後,浪人中に出会った音楽体操が私のその後の道を決定づけた.音楽に合わせて体を動かす楽しさや開放感は,それまで体育が嫌いで内向的だった私に,経験したことのない感動をもたらした.そこで私は,それまで目指していた道をバッサリと捨て,「こんなにも楽しい世界の存在を他の人に伝えたい!」という思いで,ダンスインストラクターになることをあっという間に決意してしまった.そして体育大学に入り,ダンスにあけくれる毎日を送ることとなる.とはいうものの,私のダンスの技術はあまりにも稚拙かつ未熟で,当時を知る友人からは「あなたのダンスはリズムを無視したタコ踊りのようだ」とからかわれるほどであった.それまでダンス経験がまったくなかった私は,何度もくじけそうになりながら,自身が味わった「ダンスの楽しい世界」の存在を伝えたいという壮大な思いは揺らぐことがなかった.その後,さまざまな経験を積み,ダンスインストラクターとなり,幼児から高齢者まで,音楽体操・ダンスの指導やコンサート開催等の活動を各地で精力的に行っていった.そんな折,私は高血圧の方を対象としたグループに音楽体操を指導する機会を得た.セッションが数回実施された後に,1人の男性が「先生の体操は楽しすぎるので,リハビリではない.本来リハビリはもっと真面目に厳しく,つらくても頑張るから効果があるのです」と言われた.今なら楽しさがもたらす身体的,精神的効果を彼に「楽しく」伝えることができる.しかしそのとき私は,その言葉に違和感をもちながらも,覆す根拠をもち合わせていなかった.というわけで私は,「健康な人もそうでない人も楽しく元気になる方法とその根拠」を求めて,作業療法の門を37歳で叩くことになった.その後,OTとして精神科疾患や認知症をもつ方々にダンスを実施したり,パーキンソンダンスの開発とその効果について,またさまざまな疾患に合わせたニューロダンス(ニューロサイエンス・リハビリテーション・ダンス)について開発・研究をしている.そんな私がダンスを通して得た2つのキーワード「感動」と「こだわり」についてお伝えできればと思う.
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