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はじめに
近年,日本における障害者の人権と尊厳をうたう法的環境に大きな変化が生じている.2013年(平成25年)6月には「障害者差別解消法」(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)が制定され,2014年(平成26年)1月20日には日本において「障害者権利条約」(障害者の権利に関する条約)を批准,2016年(平成28年)4月からは障害者差別解消法が施行される.障害者権利条約が国連総会で採択されたのが2006年12月であり,日本は2007年9月28日に署名をしている.それ以降,同条約の批准に向けて日本国内の障害者の人権と尊厳をうたう法的環境の整備として,2011年(平成23年)には障害者基本法改正,2013年には障害者雇用促進法(障害者の雇用の促進等に関する法律)改正等が行われてきた.
つまり障害者権利条約は,日本国内での障害者の人権と尊厳をうたう法的環境整備の大きな推進力となってきたのである.それは,憲法が「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は,これを誠実に尊守することを必要とする」(第98条2)と規定するように,障害者権利条約は国内障害法の法源となるからである1).
障害者権利条約の特徴を4点にまとめる.
1つめは,以下の第1条前段を読んでもわかるように,人権と尊厳が大きな2つの柱となる点である2).「この条約は,全ての障害者によるあらゆる人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を促進し,保護し,及び確保すること並びに障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的とする」3).
2つめは,障害者をどのように想定するかについてである.第1条後段には,次のように書かれている.「障害者には,長期的な身体的,精神的,知的又は感覚的な機能障害であって,様々な障壁との相互作用により他の者との平等を基礎として社会に完全かつ効果的に参加することを妨げ得るものを有する者を含む」3).つまり障害者の概念に社会的障壁の問題を強調する「障害の社会モデル」が形式的にも実質的にも採用されている点である1).
3つめは,第3条,第4条において,差別の禁止について一般原則を定め,締結国にその措置を求めている点である.
まず第2条で「障害に基づく差別」を「障害に基づくあらゆる区別,排除又は制限であって,政治的,経済的,社会的,文化的,市民的その他のあらゆる分野において,他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を認識し,享有し,又は行使することを害し,又は妨げる目的又は効果を有するものをいう.障害に基づく差別には,あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む.)を含む」と定義している.また,同じく第2条で「合理的配慮」とは,「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し,又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって,特定の場合において必要とされるものであり,かつ,均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう」とする.障害者権利条約に署名後,日本は,障害者の差別を禁止する法的整備を進め,2013年6月の障害者差別解消法の成立をもって,日本国内における法的環境が整ったとし,翌年1月の障害者権利条約の批准に至ったわけである.
日本における障害者差別の禁止に直接関連する法律には,①基本法,②解消法,③促進法の3つがある.基本法は,サービス提供,雇用,教育等あらゆる分野を対象に障害者の自立や社会参加の支援のための施策に関する基本原則を定めているが,ただ,障害をもつ本人が障害者差別を訴える際の根拠になる具体的権利を定めるものではない.それに対して解消法は,雇用を除くあらゆる分野を対象に,基本法の理念にのっとり,障害者差別の解消の推進に関する基本事項,行政機関等および事業者における障害差別を解消するための措置等を定めるもので,訴訟で差別を争うときの法的根拠となる.日本での障害者差別禁止の中軸を担う.雇用分野における障害者差別は,促進法によって禁止される.職業リハ,割当雇用制度等の福祉的制度に加え,差別禁止規定を定める点が特徴である.同法の差別禁止規定は,解消法のそれとおおむね同じである1).
4つめは,第3条の一般原則や第5条の平等の定めから確認できるように,人権と尊厳にとって大切なこととして,固有の尊厳,自律・自立の尊重(自己決定,自己選択の自由),無差別,社会参加・社会包容,差異の尊重・人間の多様性への配慮,施設およびサービス等の利用の容易さ等が基本方針として示され,平等のための合理的配慮の義務が締約国に課されている点である.詳しくは第2回の連載を参照されたい.
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