Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
Key Questions
Q1:特別支援教育における合理的配慮とは?
Q2:教育における基礎的環境整備とは?
Q3:児童生徒の特性に合わせた教材・教具の活用とは?
はじめに
具体的な事例を通して学習支援やサポートツールを紹介する前に,なぜ特別支援教育において,「合理的配慮」や「基礎的環境整備」が今になって強調されるようになったかの経緯を理解しておきたい.
まず,過去に通常の学級で,特別な支援を必要とする生徒が他の生徒と違う特別な学習方法や教材・教具を使うことは,担任の先生の受け入れが難しかった.その理由として,皆と違うものを使うことは,その生徒が特別扱いをされているとみなされ,他の生徒からのいじめや中傷のきっかけをつくる場合があったからだ.また,クラスの他の保護者の偏見や差別を恐れてのことでもあった.そういった周囲の大人の態度は,子どもたちにも少なからず影響するので,本人でさえ,皆と違う道具や教科書を使うことを拒否することがあった.
病院や専門施設の作業療法室での相談では,さまざまな学習方法やサポートツールを工夫して,個々の子どもに応じた手立てを実践できるので,学習の効率化や作業の成功が達成されやすい.しかし,現実には子どもが暮らす地域の学校生活で,提案された適応的手段が繰り返し実践されなければ,スキルとして定着しないのである.
このような「環境因子による壁(バリア)」を取り除き,これからの特別支援教育を大きく前進させる原動力となるのが,以下に述べる国連の障害者の権利に関する条約(以下,障害者権利条約)の批准である.この条約は,あらゆる障害者の尊厳と権利を保障するための国際条約であり,2006年12月に国連総会で採択され,2008年5月に発効された.必要な国内法令等の整備を進め,2014年(平成26年)1月20日に日本も批准した.この国際条約は,憲法と国内法の間に位置するものであり,国際条約に抵触する法律は,無効とされるため,内閣府に障がい者制度改革推進本部が設置され,法律の集中的な見直しがなされた.まず2011年(平成23年)7月,障害者基本法が改正され,発達障害が支援の対象と明記され,差別禁止規定が設けられた.また,2013年(平成25年)4月の障害者総合支援法施行により,障害者の定義に難病も加わった.批准国は,条約の規定を守り,実行することが義務づけられ,実施状況の報告が求められるのである.
今後の動向としては,2年後の2016年4月より障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(以下,障害者差別解消法)が施行される.障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本的事項や国,地方公共団体等および民間事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置等が規定されることになる.この障害者差別解消法では,障害者に対する差別の禁止と「合理的配慮の提供」が義務づけられる1).
Copyright © 2014, MIWA-SHOTEN Ltd., All rights reserved.