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単孔式腹腔鏡下手術(Single Port Surgery)が一部の領域では普及し始めている.この技術が持っている問題点は,①限られた領域から2本の鉗子が術野に挿入されるので,鉗子が左右交差して操作が困難になる,あるいは,交差しない工夫を行った場合でも,狭い術野で鉗子がバッティングしあう点がある.交差するケンブリッジ方式の鉗子の場合には,鏡を見ながら鉗子を操作するに似て,支点を中心に鉗子は反対方向に動くので,脳と手が学習している基本的運動原則と対立することになる.腹腔鏡下手術でも,カメラの向きの反対側から操作しようとすると,左右が逆転して操作の難易度が上がる.そこで,鉗子が交差しなくても良いように,大きく彎曲した鉗子が開発されている.この彎曲鉗子だと従来の腹腔鏡下手術で行っていた鉗子操作と本質的には変わらないと言えるが,やはり狭い範囲の中での操作となる.②カメラと鉗子がほとんど同じ角度から入るために,側方から術野を確認しにくい.血管などを剝離する場合には,安全性の確保が困難になる.この問題は,いろいろな角度から観察ができる軟性内視鏡を使用することで解決されるかもしれない.しかし,操作を行う方向以外からの観察画像を見ながら,制限された鉗子の操作で目的を達成するには,新たな訓練が必要になる.③腹腔鏡下手術に限らず,外科手術には術野を確保するために圧排鉗子が必要であるが,単孔式にこだわればこの問題を解決するのが困難であると思われる.④整容性の長所を指摘するが,単一の切開線であっても全体の切開線は大きくなり瘢痕が残る.臍部を利用することでこの欠点を補えるが,臍部の単一切開孔から行える手術の種類は制限される.⑤教育上の問題を考えるとき,通常の腹腔鏡下手術の一領域として行えるように,術式と器具の改良などが行われれば,この術式の長所を生かせる手術には適応されると考えられる.
技術上の困難性から事故が起きやすくなる術式は普及しない.そこで,単孔式腹腔鏡下手術が持っている技術的困難性を克服する器具などの改良,術者の訓練,対象手術の選択を慎重に行うことで,この術式の普及が図られるのではないかと思われる.一方,整容性を追求するにはNOTES,細径鉗子の利用なども考えられ,柔軟・慎重に対処することが望まれる.
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