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内視鏡外科の歴史を振り返ると,体壁破壊を最小にすることで低侵襲化をめざした腹腔鏡下手術や胸腔鏡下手術が1990年代から普及し始めた.さらに最近では,米国の内視鏡外科関連学会において,NOTES(natural orifice transluminal endoscopic surgery:開口部からの経管的腹腔鏡下手術)が盛んに話題となっている.数年前に学会場でその手技をビデオで見た.内視鏡を経口的に胃内まで挿入し,次に胃壁に穴を空けて腹腔内にまで入れ,虫垂切除術を行っている手技を見たときには,かなり驚いた.NOTESは,胃や結腸,さらには腟から内視鏡を腹腔内に入れて,胆囊や脾臓,虫垂などを切除しようとする新しい手術概念である.リーダー的存在の有名な外科医が熱っぽく語るので,次世代の手術になる可能性を感じてしまう.現時点では動物を用いた実験的研究がほとんどではあるが,そこには内視鏡外科領域や消化器内視鏡領域の医療者がいっせいに新しい技術開発を進めている力強さがある.一見すると不可能では,あるいは夢物語ではと感じる技術開発の報告があっても,ひょっとすると大化けするかもしれないという期待感が膨らんでくる.欧米では消化器内視鏡担当医は内視鏡外科医とは分業されているが,本邦では消化器系の内視鏡外科医は消化器内視鏡を操作することを日常臨床でこなしているという特殊性がある.もし,ひとたびNOTESが本邦に導入されれば,消化器系の内視鏡外科医はあまり抵抗なくNOTESを自分の技の中に取り入れることが可能であろう.しかし,本当に胃や腸や腟から内視鏡を入れて手術をする価値があるのかという素朴な疑問もわいてくる.腹腔への到達方法で腹壁を破壊するか,胃壁などを破壊するかの違いにすぎないが,技術的な問題,使用機器の問題,安全性の問題,適応疾患の問題など解決するべきことは多くある.学問としては興味深い分野であるが,はたして日常臨床に取り入れることが可能かどうかを常に考える必要がある.
NOTESをめぐっては研究者のあっと驚く斬新な発想や不可能を可能にする努力と熱意など,われわれが学ぶべき点は多い.腹腔鏡下手術が登場した10数年前と同じような熱狂が再来するのかしばらく成りゆきが楽しみである.日本内視鏡外科学会雑誌にも斬新な発想や不可能を可能にする工夫などが投稿されている.これらの論文を査読するときに研究者の熱意が伝わってくると,こちらもこの仕事を引き受けてよかったと思う.査読者の心を揺り動かす論文が今後とも多数投稿されることを願いたい.
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