日本内視鏡外科学会雑誌 12巻3号 (2007年6月)

特集 婦人科疾患に対する腹腔鏡下手術における関連科との連携

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 最近では,種々の婦人科疾患に対しても積極的な腹腔鏡下手術が求められるようになってきた.それにより,新たに手術を導入する施設が増加し術者の育成も図られている.また,手術適応の拡大により,より高度で複雑な手術操作を要する場合や,初めから関連科と連携して行う手術内容も増加している.中でも子宮内膜症は良性疾患でありながら,チョコレート囊腫や深部子宮内膜症や子宮腺筋症などが骨盤内で一塊の状態を呈したり,膀胱や尿管などの尿路系や,直腸や小腸などの腸管系などにも波及した病状を呈する場合もある.そのような複雑な病態の手術に対しては関連科との事前の綿密な連携が大切である.また,突然に出くわす術中の偶発症や合併症,術後の合併症なども起こりやすい環境になってきている.今回の特集では『婦人科疾患に対する腹腔鏡下手術における関連科との連携』を取り上げ,他科と関連する手術内容,合併症などを回避するコツ,対処方法などについて触れていただくことにした.

 最初に,腹腔鏡下手術の草分けでもある京都医療センターの杉並洋先生からは,経験が少ない先生方やよりアドバンスな手術を目指される先生方へのメッセージとして,臓器損傷などの合併症を回避する方法と注意点,合併症が発症した場合の対応策,教育システムに言及して下さいました.

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 要旨:種々の婦人科疾患に対して腹腔鏡下手術は広く行われるようになってきており,今後もこの傾向は持続していくと思われる.手術が複雑になれば術中合併症も起こりやすくなる.合併症は,(1)セットアップ時に起こるもの,(2)術中操作に付随して起こるもの,(3)使用する手術機器に関連して起こるもの,(4)技術の未熟性に関連したもの,の4つに大別できる.それぞれに対して,(1)セットアップ方法の再検討,(2)water dissectionやcounter-tractionを駆使した切離層の拡大,(3)機器の特性の熟知と機器選択,(4)有効な教育システム,が重要である.合併症が起こった場合,最も重要で有効な対処法は縫合である.バイポーラーも有効な止血法の1つである.

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 要旨:婦人科領域の外科的腹腔鏡下手術の普及に伴い,全体として合併症の頻度は低下しているが,尿路損傷は不変かむしろ増加傾向にある.婦人科手術における尿路損傷には尿管損傷,膀胱損傷があり,ともに尿管腟瘻,膀胱腟瘻をきたすことがある.膀胱損傷の多くは術中に発見され,かつ修復は容易である.一方で,尿管損傷は術中よりも術後の腹部症状で発見されることが多く,ときに腹膜炎などの重大な合併症を引き起こす.また,尿管腟瘻,膀胱腟瘻は術後長期にわたって患者を苦しめることになる.こうした合併症を予防するため,尿路損傷の予防,術中発見の方法,あるいは尿路損傷に対する処置について述べる.

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 要旨:腹腔鏡下手術中に偶発する腸管損傷,特に腸管穿孔は対処を誤ると汎発性腹膜炎から敗血症,さらに多臓器不全に進展し,致死的な状況に陥る.このため婦人科医は腸管損傷に対する外科的知識と回避法,対処法を知らなければならない.腸管損傷の可能性が想定される場合は術前から外科との密な連携を図り,万全の体制で手術に臨み,残念ながら偶発症が発症した場合は安全,確実を最優先に考慮し,迅速かつ的確に対応することが婦人科医の責務である.

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 要旨:子宮内膜症は腹膜や卵巣のみならず広汎に分布しうる疾患である.ときに骨盤外など異所性に存在することもあり病変の分布やまたその癒着・線維化の程度は極めて多様である.近年,後腹膜深部に及ぶ子宮内膜症が注目されている.この中で稀な病態として尿管・膀胱など尿路系に及ぶ子宮内膜症がある.出血などの症状の他,狭窄や閉塞による腎機能障害を惹起する場合もある.治療として薬物療法だけでは限界があり,手術療法が重要な位置を占める.機器の進歩と手術技術の向上により,複雑な操作を要する手技も腹腔鏡下に行うことが可能となってきており,尿管周囲の深部に存在する内膜症病変,あるいは尿路自体の部分切除や再建などもより低侵襲に行うことができる.

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 要旨:腸管内膜症は,骨盤内膜症の7~37%に認められる比較的ポピュラーな疾患である.ほとんどの腸管内膜症は,ダグラス窩深部内膜症が直腸またはS状結腸側に進展したものであり,腸管切除を要する症例の頻度はそれほど高くない.ダグラス窩深部内膜症と腸管内膜症の症状は類似しているが,腸管切除が必要か否かの判断には筆者らが考案したMRIゼリー法が有用である.切除が必要な腸管内膜症は,MRIゼリー法でlow intensityな陰影欠損として認められる.腸管内膜症の手術には腹腔鏡下手術が適しており,まず併存するダグラス窩深部内膜症を剝離・切除した後,低位前方切除術を行う.小腸内膜症は比較的稀な疾患であり,回盲部付近の回腸にみられる.イレウスにより発症することが多く,術前の画像診断は困難であるが,診断がつけば腹腔鏡下手術も可能である.

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 要旨:Rokitansky-Kuster-Hauser症候群という先天性腟欠損症に対する造腟術としては多種多様な方法が試みられてきている.筆者らもまず初めに開腹によるS状結腸利用法を施行したが,手術の侵襲性と美容面に課題を残した.次いで,これらの点を考慮して,腹腔鏡下に行う骨盤腹膜利用法を施行した.ところが,先の課題点は克服できたものの,今度は目的とする腟の自然性では必ずしも満足の得られるものではなかった.それらの点を考慮してたどり着いた手術方法が,腹腔鏡下に行うS状結腸利用法である.しかし手術の完成度を高めるには,手術内容とその手術に対するスキルの習得は当然のこと,診療科を超えて関連する消化器外科との連携も大切である.

 われわれは29例に腹腔鏡下S状結腸利用法を施行したが,腟本体の自然性と永久性を満たし,美容面もクリアしたとはいえ,手術侵襲は避けられない.現在では,腟圧迫法や代用上皮利用法や腹膜利用法なども選択肢の1つとして提供しており,もしも施行した腟に問題が生じた場合には腹腔鏡下S状結腸利用法で対処すればよいとの考え方に至っている.本稿では,これまでの経緯の紹介と現在の手法について紹介する.

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水頭症に対しては外科的治療が主流であり,その代表は脳室腹腔シャント(ventriculo-peritoneal shunt:以下,VPシャント)である.吸収できなくなった髄液を脳室から腹腔内にドレナージするもので,通常腹部操作は小開腹で行っている.2002年11月以来,腹部操作に腹腔鏡を取り入れ36例に施行した.腹腔鏡使用により完成後のシャントチューブ腹腔端からの髄液流出確認とダグラス窩へのチューブ先端の留置が可能となった.腹部手術の既往症例への応用,腹部操作の低侵襲化による術後合併症の低下なども利点となる.腹腔鏡補助下脳室腹腔シャント(laparoscopic VP shunt:以下,Lapa VPシャント)は安全性・確実性に優れた術式と考えられた.本稿では,Lapa VPシャントの手技とその成績について述べる.

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患者は32歳,男性.背部痛と上腹部違和感を主訴に当院を受診した.画像所見より脾囊胞と診断した.約10か月の経過観察後も症状を持続するため手術を行った.手術は4本のポートを用いて,低圧気腹下に腹腔鏡下で施行した.囊胞は脾門部から横隔膜下にかけて脾前方に突出して存在しており,表面の観察は容易であった.内容液を穿刺吸引後,囊胞を開放し,脾実質移行部近傍を広範囲に切離した.囊胞は単房性で,内壁は平滑白色調,病理組織所見より仮性囊胞と診断された.脾温存術式として脾囊胞に対するlaparoscopic dome resectionは低侵襲,かつ安全に施行可能であり,有用な術式と考えられた.

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誤飲した縫い針13本を,早期に腹腔鏡下手術などで摘出した症例を経験したので報告する.患者は61歳,女性.自殺目的で縫い針を飲んだ翌日,腹痛,咽頭痛にて入院した.胸腹部単純X線写真,CT検査で,咽頭部に2本,胃内に7本,十二指腸内に2本,小腸内に2本の針を確認した.全身麻酔下に喉頭鏡で咽頭部の針を摘出した後,トロッカーを3本挿入し,8~10mmHgで気腹した.腹腔鏡下に,小腸内の針を腸壁を貫通させて摘出した.胃,十二指腸内の針は,上部消化管内視鏡下に摘出した.術後経過は良好で,第7病日に退院した.縫い針の摘出には,必ずしも腸切除を必要とせず,本術式は非常に有効であると考えられた.

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近年,大腸癌ならびに腎臓癌に対して,内視鏡下手術が標準術式となりつつある.今回,筆者らは腹腔鏡下に一期的に切除しえた上行結腸癌,腎臓癌の1例を経験したので報告する.症例は63歳,男性.血便を主訴に近医より紹介された.大腸内視鏡検査で上行結腸に長径3cm大,1/3周を有するⅡ型腫瘍を認め,大腸癌と診断された.術前腹部CTで右腎臓に直径3cmの造影される腫瘍を認め,腹部超音波も合わせて腎臓癌が疑われた.腹腔鏡下に一期的に結腸右半切除術,右腎臓摘出術を施行した.術後10日目に退院した.手術時間の問題はあるが,重複癌に対しても腹腔鏡下手術は低侵襲,整容上の利点,診断的意義の観点からも有用であると考えられた.

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われわれは腹壁瘢痕ヘルニアに対し,金属ステイプラーを用いない腹腔鏡下修復術を考案した.まず,2-0ナイロン糸を4針コンポジックスメッシュ(E/Xタイプ)に縫着した後,腹腔内に挿入する.この4本の糸はEndocloseで体外に誘導し,皮下で結紮する.鮒田針で腹壁全層とメッシュを4か所固定後,鮒田針の糸を挿入する針を屈曲させ,皮膚の小切開から刺入してメッシュの全周に固定を追加する.この糸は小切開を通じ皮下で結紮する.これにより,金属ステイプラーを用いずメッシュを確実に,また簡便に固定することが可能である.これまで3例に施行したが,持続する疼痛,術後出血,ヘルニア再発などを認めていない.しかし,観察期間が平均4.7か月と短く,今後長期予後を検討する必要がある.

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欧文目次

「日本内視鏡外科学会」理事会議事録

EVENT NEWS

「日本内視鏡外科学会雑誌」投稿規定

著作権譲渡同意書ならびに誓約書

編集後記 小澤 壯治
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 内視鏡外科の歴史を振り返ると,体壁破壊を最小にすることで低侵襲化をめざした腹腔鏡下手術や胸腔鏡下手術が1990年代から普及し始めた.さらに最近では,米国の内視鏡外科関連学会において,NOTES(natural orifice transluminal endoscopic surgery:開口部からの経管的腹腔鏡下手術)が盛んに話題となっている.数年前に学会場でその手技をビデオで見た.内視鏡を経口的に胃内まで挿入し,次に胃壁に穴を空けて腹腔内にまで入れ,虫垂切除術を行っている手技を見たときには,かなり驚いた.NOTESは,胃や結腸,さらには腟から内視鏡を腹腔内に入れて,胆囊や脾臓,虫垂などを切除しようとする新しい手術概念である.リーダー的存在の有名な外科医が熱っぽく語るので,次世代の手術になる可能性を感じてしまう.現時点では動物を用いた実験的研究がほとんどではあるが,そこには内視鏡外科領域や消化器内視鏡領域の医療者がいっせいに新しい技術開発を進めている力強さがある.一見すると不可能では,あるいは夢物語ではと感じる技術開発の報告があっても,ひょっとすると大化けするかもしれないという期待感が膨らんでくる.欧米では消化器内視鏡担当医は内視鏡外科医とは分業されているが,本邦では消化器系の内視鏡外科医は消化器内視鏡を操作することを日常臨床でこなしているという特殊性がある.もし,ひとたびNOTESが本邦に導入されれば,消化器系の内視鏡外科医はあまり抵抗なくNOTESを自分の技の中に取り入れることが可能であろう.しかし,本当に胃や腸や腟から内視鏡を入れて手術をする価値があるのかという素朴な疑問もわいてくる.腹腔への到達方法で腹壁を破壊するか,胃壁などを破壊するかの違いにすぎないが,技術的な問題,使用機器の問題,安全性の問題,適応疾患の問題など解決するべきことは多くある.学問としては興味深い分野であるが,はたして日常臨床に取り入れることが可能かどうかを常に考える必要がある.

 NOTESをめぐっては研究者のあっと驚く斬新な発想や不可能を可能にする努力と熱意など,われわれが学ぶべき点は多い.腹腔鏡下手術が登場した10数年前と同じような熱狂が再来するのかしばらく成りゆきが楽しみである.日本内視鏡外科学会雑誌にも斬新な発想や不可能を可能にする工夫などが投稿されている.これらの論文を査読するときに研究者の熱意が伝わってくると,こちらもこの仕事を引き受けてよかったと思う.査読者の心を揺り動かす論文が今後とも多数投稿されることを願いたい.

基本情報

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日本内視鏡外科学会雑誌
12巻3号 (2007年6月)
電子版ISSN:2186-6643 印刷版ISSN:1344-6703 日本内視鏡外科学会

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