- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
大学病院での麻酔科後期研修3年目。1歳の子を抱えながら,以前から心待ちにしていた心臓麻酔研修が始まった。
17時,定例の大動脈弁置換術が終わり,帰宅できるかと思った矢先,A型大動脈解離の緊急手術の連絡が入った。保育園へのお迎え時間は迫っていた。しかし,めったにないこのチャンス,大動脈解離の麻酔をするか,お迎えに行くか?
普段のお迎えは19時には行っているが,緊急時は21時まで保育延長が可能である。夫は当直で頼めない。息子には悪いが,麻酔をとった。
患者は,心タンポナーデに重症大動脈弁閉鎖不全症を合併しており,血圧は収縮期70mmHg台と循環は不安定な状態であった。麻酔導入,陽圧換気開始による心停止のリスクが高いと判断し,先に患者の体を消毒し,ドレープをかけ,心臓外科医に準備をしてもらうように指示した。
慎重に麻酔導入を開始した。予想どおり血圧がさらに低下したため,急いで胸骨切開,心膜を開けて心タンポナーデを解除してもらうと血圧は安定し,無事に人工心肺が確立された。ドキドキ,ハラハラの麻酔管理で患者以上に自分のカテコールアミンがたくさん分泌された。
お迎えのタイムリミットがやってきた。手術終了まで麻酔を担当したいという気持ちがふつふつと湧いていたが,指導医,当直医に,その後の管理を泣く泣くお願いし,急いで保育園に向かった。
到着したのは21時を少し過ぎていた。息子は保育園のおばあちゃん先生の膝ですやすやと寝ていた。寝ている息子を起こさないように抱っこしながら,タクシーで帰宅。息子をソファーに置くと,自分もその横で倒れ込み寝てしまった。翌朝携帯の目覚ましで起こされ,急いでシャワーを浴び,息子に朝ごはんを食べさせ,保育園へ連れて行く準備をして,家を出た。
Copyright © 2022, MEDICAL SCIENCES INTERNATIONAL, LTD. All rights reserved.