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「適切な血圧を保つ」ということは,全身の臓器に血液を送るための循環システムを破綻しないようにコントロールすることである。つまり細胞活動の恒常性を保つために必須の成分である酸素と栄養(グルコース)を各臓器に供給することが目的であり,特に酸素は組織の中に蓄えておくことができないため,常に供給され続けなければならない。この最も重要なシステムを維持するために,生体には血圧をコントロールする機構がいくつも存在するが,手術時にはさまざまな要因から,それらの機構が破綻し,生命や臓器に不可逆的なダメージをきたす事象が生じる。
麻酔関連偶発症例調査(1999-2003)によると,術中死の原因の1位は「出血性ショックおよび大出血」で全体の50%を占め,出血による「低血圧」が直接の死因と考えられる。さらに第2位も「術前,術中の心筋梗塞,冠虚血」が8.4%で続いており,これも「低血圧」が継続したことにより冠動脈血流が維持できなかったことが原因だろう1)。また死に至らずとも,麻酔が原因で起こる術中の危機的偶発症のうち高度低血圧は独立した項目として設定されており,頻度も2番目に高く,10000例に1.2例と報告されている。低血圧が手術時に重篤な合併症であることに疑いの余地はない。加えて,近年では術後の合併症として脳梗塞や術後せん妄,急性腎傷害acute kidney injury(AKI)なども術中の低血圧と関係があると考えられている。血圧の低下を予防し,また血圧が低下した際はすみやかに対処し,臓器へのダメージを最小限に食い止めることが,周術期を合併症なく乗り切るために重要な課題といえよう。
術中,術後の合併症を起こさないように血圧,循環管理を行うとき,当然のことながら,収縮期血圧のみではなく,拡張期血圧,平均血圧を意識しなければならない。例えば冠動脈は拡張期に血流が供給されるため,拡張期血圧を十分に維持できなければ心筋虚血をきたすリスクがあるし,脳やその他の重要臓器の血流を維持するためには平均血圧を保つことが重要であることがわかっている。また低血圧が持続すれば,遠隔期の死亡率が上昇することも示唆されており,例えば術中に低BIS値(45以下)に加えて平均血圧75mmHg以下が1時間以上続いた群では90日死亡率が高いことが報告されている2)。
本稿では低血圧による臓器ごとの合併症と原因別の対処法について述べる(表1)。
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